デバイス物理の研究概要

村瀬 克実
先端デバイス研究部

新しいデバイス・材料の出現がきっかけとなって、新しい産業が興り、そしてそれが我々の生活様式、さらにはその根柢にある個人の価値観にまで変化をもたらすことは、歴史が示すとおりです。いまNTTは、情報流通企業として、情報に関する様々な新しい技術やサービスを創出し提供することにより、より豊かな生活の招来と文化の創造に貢献しようとしています。この中にあって、先端デバイス研究部は、革新的デバイス・材料の創出を通して、社会の持続的発展を支える情報流通技術基盤の構築に参画することを目指しています。
この目的を達成するために、
(1) 将来必須となるデバイスを実現するための基礎技術の研究
を中心に、さらにその先の新原理デバイスの創出および新物性材料の創製に向けて、
(2) 半導体表面での原子の挙動の解明とそれに立脚したナノ構造制御手法の探索
を進めています。

目下重点的に研究しているデバイスはシリコン(Si)単電子デバイスです。これは原理的には電子1個で動作の制御ができるデバイスで、現在のLSIに使われているデバイスの数万分の1程度の電力で動く究極の低消費電力デバイスです。この先、情報量はますます増えていくでしょうが、それにともなって、情報処理・通信に使われるエネルギーの量も、このまま推移すると、爆発的に増えていくと予想されています。したがって、各種情報機器の消費電力を抜本的に削減する手だてを講じないことには、社会の持続的発展が危うくなります。Si単電子デバイスはこの問題を解決するための有力な切り札である、と考えています。
Si単電子デバイスによる超低消費電力・超高性能集積回路を実現するためには、制御性の高いナノ加工技術を開発するとともに、それに支えられたプロセス技術を構築し、さらにデバイス自体を高機能化する必要があります。またこのためには、ナノ加工に関わる化学反応を原子レベルで制御するための理論的研究、Siナノ構造における電子の振る舞いを予測するための理論的研究も重要です。これらの研究は、Siナノデバイス研究グループとナノ加工研究グループとが担当しています。本年度もこの分野では着実な進展がありましたが、次ページ以降で、そのうちの代表的な成果3件を紹介しています。
現在、デバイスのパターンはリソグラフィ技術によって形成していますが、これの対極的な方法として、原子の自己組織化によるパターン形成があります。指定した任意の場所で自己組織化を起こすことができると、これまでにないナノ構造集積技術を創出することが可能になります。表面構造制御研究グループでは、予めリソグラフィ技術でSi表面に形成したパターンを利用することにより原子の自己組織化を人為的に制御し、さまざまなナノ構造をウエハ全面にわたって実現することに、実験と理論との両面から、挑戦しています。その成果の見事な一例を後のページで紹介します。
原子レベルで組成を制御することにより、新しい物性を示す材料を創製することも、新原理デバイスを産み出すための大きな原動力となります。放射光応用物性研究グループでは、シンクロトロン放射光を用いた高精度表面解析技術を開拓するとともに、その解析技術を駆使して新物性材料を探索・創造することに取り組んでいます。


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