スイッチするジフェニルポリシラン

藤木道也 Julian R. Koe 中島 寛
機能物質科学研究部

スイッチ、メモリ機能を有する高分子の研究が盛んである。分子構造の修飾と最適化によりオプトエレクトロニクス特性の制御が容易であることに加え、大面積薄膜形成性に優れているからである。光学活性高分子は一般に右巻と左巻の2つのらせん構造を安定に有している。もし外部のエネルギーによって、らせん巻性を右から左、左から右に変換することができるならば、光学活性スイッチやメモリとしての応用の可能性が生まれてくる。これまでそのような特性を示す高分子として、非共役系のポリペプチドやポリイソシアネートが知られていた。
最近我々は、光学活性なシグマ共役高分子−ポリジフェニルシラン−が、らせん構造をとっていることを明らかにした[1]。ポリジフェニルシランは電界発光素子材料やホール輸送材料として重要である。キラル(不斉)な (S) - 2 - メチルブチル基をパラ位やメタ位に有するポリジフェニルシラン誘導体は、溶液中、400 nm付近に主鎖らせん性に基づく正あるいは負のコットンCDシグナルを与える。しかし、その符号、すなわち優先する巻性はSi原子当たりキラル置換基の数で決まる。Si原子当たりのキラル置換基1個であれば正の、2個であれば負のコットンCDシグナルを与える。
この知見に基づいて我々は、構造の最適化によって、光学活性なポリジフェニルシランの優先するらせん構造を、外部エネルギーによって制御できるのではないかと期待した。そのような高分子は、例えば、円偏光を発する電界発光素子や円偏光フィルター、キラル分子識別半導体材料として有用であろう。我々は、特別の組成を有する光学活性なポリジフェニルシラン、poly[{bis-(meta-(S)-2-methylbutylphenyl)0.2-co-(bis-(para-n-butylphenyl}0.8 -silylene]()(ポリシラン)が温度によって可逆的ならせん反転を起こすことを見い出した[2, 3]。-10℃以下では、ポリシランは負の、-10℃以上では、正のコットンCDシグナルを与える。
[1] J. R. Koe, M. Fujiki, and H. Nakashima, J. Am. Chem. Soc. 121 (1999) 9734.
[2] J. R. Koe et al., Chem. Commun. 2000 (2000) 389.
[3] Science 287 (2000) 2117 (Editor's choice).


     
図1 ポリシランのCD-UVスペクトル


              
図2 ポリシランのCD-UV強度の溶液温度依存性


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