MBE法による新鉛系銅酸化物高温超伝導体の合成

狩元慎一 内藤方夫
機能物質科学研究部

1986年に銅酸化物高温超伝導体が発見されて以来、より高い臨界温度(T)を持つ物質探索が続けられている。その合成手法も、発見当初より用いられていたセラミック合成法から、高温・高酸素圧合成へと変遷してきた。しかしながら、上記バルク合成法による新物質合成は頭打ちの状況にある。我々は、このような状況を打破し、より高いを持つ新物質を合成する目的で、分子線エピタキシー法(MBE法)を用いた新物質合成に取り組んでいる[1]。
銅酸化物高温超伝導体は、超伝導を担う銅−酸素面とこの面にキャリアを注入する電荷供給層と呼ばれる層の積層構造を有する(図1)。したがって、新超伝導体の探索は、新電荷供給層の探索と言い換えることができる。今回我々は、電荷供給層として鉛酸化物(PbO)を選択し、PbSr2CuO5+d(Pb1201)の化学式で示される新超伝導体の合成に成功した[2]。この物質は、通常のバルクでは合成できない物質である。以下に合成のポイントを示す。(1)低温成長:Pb1201は、構成元素に蒸発しやすい鉛酸化物を含む。MBE法は、バルク合成法よりはるかに低い温度での成長が可能である。今回は、500℃の低温で薄膜成長させることにより、鉛酸化物の蒸発を抑制した。(2)エピタキシー:バルクでこの物質を合成しようとすると、熱力学的に安定な他の物質(SrPbO3)が生成し、目的のPb1201相は得られない。この熱力学的安定相の生成を抑制するには、薄膜成長基板の選択が重要である。図2に、異なる基板上に作製した薄膜のX線回折図を示す。一般的によく用いられるSrTiO3基板を用いた場合にはSrPbO3が成長し、LaAlO3基板を用いた場合にPb1201が成長することがわかる。Pb1201は、銅−酸素面が1枚の基本物質であり、Tは約40 Kであるが、経験則から銅−酸素面が3枚の物質を合成できれば、T > 120 Kが期待できる。
[1] H. Yamamoto et al., Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997) L341.
[2] S. Karimoto and M. Naito, Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) L283.



図1 高温超伝導体の構造模式図



図2 異なる基板上に作製した薄膜のX線回折図

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