半導体ドット列を用いた強磁性体の理論的予言

田村浩之 白石賢二 高柳英明
機能物質研究部

我々は半導体ドット列において強磁性が発現することを理論的に予言した。フラットバンドと呼ばれる分散を持たない特殊なバンドを持つ格子構造において、電子間相互作用の効果により電子のスピンが強磁性的に揃うことがこれまで予想されていたが[1]、フラットバンド強磁性が実現しているとはっきり分かっている物質はこれまでに見つかっていない。これは、フラットバンドを実現できる物質を合成したり加工したりすることが技術的に困難であるためであった。しかし、我々は半導体ドット列をうまく並べると(図1)、フラットバンド強磁性体を比較的容易に作製できることを提案した(図2)[2]。
磁性元素を持たない半導体物質だけで磁性体を作製することには、応用上非常に大きな利点があると考えられる。ます第一に、ドット列は磁性元素を含んでいないので、既存のLSI微細加工技術をそのまま用いることにより磁性体を作製することができることになる。これにより、例えばMOSトランジスターと、センサーメモリーなどの磁性デバイスを同一シリコン基板上に作り込むことが可能となり、チップのさらなる集積化・工程数削減化が期待できる。第2に、半導体構造においてはゲート電極を用いて電子密度を自由に変えることができるので、強磁性状態のスイッチオン・オフが自在にできるという大きなメリットを持っている。この利点のために、我々が提案した半導体磁性体は高速スイッチングデバイスや高感度センサーなどデバイス応用の観点からも大きな可能性を秘めている。
[1] E. H. Lieb, Phys. Rev. Lett. 62 (1989) 1201.
[2] H. Tamura, K. Shiraishi, and H. Takayanagi, Jpn. J. Appl. Phys. 39 (2000) L241.

  

図1 強磁性を示す半導体二次元構造の模式図  


                        
図2 フラットバンドの例(3本のバンドのうち中央がフラットバンド)


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