機能物質科学の研究概要

高柳英明
機能物質科学研究部

我々は、新規物質の創製と、これを用いた新しい量子現象の発見と概念の創出を目指しています。この目的のため本研究部は以下の5つの研究グループから構成されています。これらのグループは、高温超伝導体やフォトニック結晶などの無機物質から、シリコン高分子や神経伝達物質などの有機物質にいたる広範囲な物質群をカバーしています。本研究部の特徴は多様な物質群を扱うだけでなく、これらが、各グループで独自に開発された極微細加工技術や精密測定技術を通して、有機的に連携されていることです。これによって、研究領域や手段が融合し、情報流通社会における技術革新が可能となります。

(1) 分子科学研究グループ
新有機材料における光・電子物性の解明を通して、無機材料では実現し得ない、高輝度光素子、新機能電子素子の実現を目指す。
(2) 生体機能研究グループ
神経機能を土台とする新アーキテクチャを用いた、情報処理機構を開拓する。
(3) 超伝導体薄膜研究グループ
MBE成長技術による新高温超伝導材料の薄膜成長技術を確立する。
(4) 超伝導量子物理研究グループ
量子コンピュータの基礎である、量子ビット動作実現を目指して、超伝導体・半導体結合構造などの超伝導素子における巨視的量子コヒーレンスを解明する。
(5) 極微細構造素材研究グループ
3次元フォトニック結晶作製技術を用いて、特異なビーム伝播を利用した光素子の開発を行う。

今年度の代表的な成果3つを、次ページ以降に掲載しています。最初のトピックは、ポリシランと呼ばれる高分子のらせんの巻き方の制御に関するものです(トピック1)。ポリシランの一種であるジフェニルポリシランには、右巻きと左巻きの二つの状態がありますが、-10℃を境にして一方から他方の状態に移ることがわかりました。この研究は、光学活性スイッチやメモリへの応用が期待されます。 
分子線エピタキシー法(MBE法)を用いて、新しい鉛系高温超伝導体の合成に成功しました(トピック2)。MBE法は、バルク合成法より低い温度での成長が可能なため、バルク法では合成できない薄膜を合成することができます。今回合成した新材料は、銅―酸素面が1枚のため、超伝導転移温度は、約40 Kですが、面数の多い材料を合成できれば、120 K程度の転移温度も期待できます。
最後のトピックは、半導体ドット列の磁性に関する理論提案です(トピック3)。ドットが全く磁性材料を含まなくても、ドット中の電子数を制御することによって、系全体が強磁性を発現します。新しい磁性素子、スイッチング素子への展開が考えられます。

目次