紫外発光AlGaN量子井戸LED

西田敏夫 斎藤久夫 小林直樹
量子物性研究部

新しい波長の光源を実現することは科学・技術の両面から極めて重要である。可視光(波長:400 nm〜700 nm)よりも波長の短い紫外光は化学的活性度が高く、また光学的空間分解能が高いという特徴があり、化学・生物・環境分野や大容量DVD等の光学機器分野に適用可能である。これまでの紫外域の光源は消費電力・重量・サイズが大きく応用分野の拡大を阻んでいた。ワイドギャップ半導体材料である窒化物結晶を適用できれば、低消費電力・コンパクトな紫外光源が可能でありその波及効果が大きい。アルミニウム(Al)を含む窒化物については紫外域(波長:200 nm〜360 nm)にバンドギャップを有する材料として原理的な可能性が示されていたが、結晶品質・構造制御性等に困難さがあり、実験的な検証例が無かった。我々は高い結晶成長技術とそれに裏打ちされた材料物性の理解により、窒化物材料系では初めて350 nm以下の短波長における電流注入発光を実現した。
紫外光デバイス実現には、特に平坦な結晶成長技術と窒化物半導体に特有な分極の理解と制御が重要であった。挿入図は炭化珪素(SiC)基板上に有機金属気相成長法(MOVPE)法によって成長した窒化ガリウム(GaN)表面の平坦性を、原子間力顕微鏡(AFM)で観察した結果である。表面は1単位格子ステップからなる原子レベルで平坦な表面を形成している[1]。また、このような平坦成長技術を用いて、わずか4分子層・8分子層からなるGaN量子井戸構造を形成し光学特性を評価した。その結果、厚さ方向の1 cmあたりおよそ70万ボルトという非常に大きな内部電界が生じていること[2]、この内部電界が短波長化と高効率発光の阻害要因となることを確認した[2, 3]。内部電界を抑圧するため、窒化アルミニウム・ガリウム(AlGaN)からなる多重量子井戸を用いた発光ダイオード(LED)素子を設計・作製した。図は室温において連続電流注入した素子の発光スペクトルで波長346 nmにおいてバンド端発光を得ている[3]。今後、短波長化、高効率化、レーザー素子の実現が期待される。
[1]T. Nishida et al., Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) L459.
[2]T. Nishida et al., Int. Conf. on Blue Laser and Light Emitting Diode 1998.
[3]T. Nishida and N. Kobayashi, Phys. Stat. Sol. A 176 (1999) 45.


       
図1 GaN結晶表面のAFM像          



図2 AlGaN量子井戸LEDの発光スペクトル


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