シリコン酸化の統一理論

影島博之 白石賢二 植松真司
先端デバイス研究部

シリコンを1000℃程度の高温下で酸素ガスの中に置いておくと、表面が酸素と反応して酸化されシリコン酸化物になる。この熱酸化現象は様々な有用な性質を備えているため、携帯電話やファクシミリ、電子交換機、パーソナルコンピュータ、といった今日の情報通信機器の心臓部である半導体部品ULSIを作製する際に極めて重要な役割をしている。同様にして、今後のより高度な情報通信社会を担うと期待されるシリコン単電子トランジスタのような新世代の半導体部品の作製の際にも、この熱酸化が重要な役割を担うことは間違いない。
こうした新世代の半導体部品においては、原子が数えられるほどの世界での超精密な加工が重要であり、熱酸化による加工についても同様に高度な精密さが求められる。しかし、このような世界において熱酸化はこれまでの経験や知識で予測の困難な「初期増速酸化」や「パターン依存酸化」などの様々な不思議な性質を示し、精密な制御は難しい。そこで我々は通常のパーソナルコンピュータよりもはるかに高速なスーパーコンピュータを使って原子の世界の運動法則である量子力学を解くことにより、この熱酸化現象が原子の世界ではどのようなものであるのかの解明を試みている。
これまでにこの試みによって、熱酸化は従来考えられていたような、単に酸素が表面からシリコンに浸み込んでいって酸化物を表面に形成するだけの現象ではなく、その際にシリコンも酸化物の中にかなり大量に溶け出していることが明らかになった[1]。このシリコンの溶け出しを考慮に入れることにより、我々はこれまで統一的に説明することができなかった酸化物の成長する速さを、「初期増速酸化」と呼ばれる現象も含めて、矛盾なく極自然に説明することに成功した[2]。さらにこのシリコンの溶け出しを考慮に入れることによって、「パターン依存酸化」と呼ばれる現象を予測・制御したり、形成された酸化物の物理的・電気的性質を予測・制御したりすることが可能になることが期待でき、現在鋭意研究中である。
[1] H. Kageshima and K. Shiraishi, Phys. Rev. Lett. 81 (1998) 5936.
[2] H. Kageshima, K. Shiraishi, and M. Uematsu, Jpn. J. Appl. Phys. 38 (1999) L971.

   
      

図1 シリコン熱酸化の概念図と統一理論の有効性


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