Si超平坦面上の原子ステップダイナミクス

Paul Finnie 本間芳和
先端デバイス研究部

平坦な結晶材料の表面にも、無数の原子スケールの段差(原子ステップ)が存在する。この段差は結晶の成長の起点となるため、原子レベルで制御された薄膜の成長や極微細な構造の形成に重要な役割を果たす。我々は,原子ステップについて独自の観察技術と分布制御技術を開発することにより、原子ステップの運動を視覚化し、その背後にある物理の解析を可能にした。
原子ステップを観察する舞台は、100μmもの広い領域に渡って原子レベルで平坦なSi (111)結晶面である。このような超平坦面が、シリコン表面の穴の底面において、原子ステップが蒸発により後退する過程で形成されることを明らかにした[1]。その上に原子ステップを一つ一つ制御して導入し、走査電子顕微鏡による原子ステップ観察技術を応用することで、個々の原子ステップの動きを追跡できる。すなわち、原子レベルの現象をマクロなスケールで見ることを可能にした。例えば、蒸発や結晶成長時において、原子ステップ1個分の段差の2次元的な島や穴が拡大・縮小する過程を調べると、原子ステップが表面原子を取り込んだり放出したりする微視的な機構に関する情報が得られる。また、複数の島や穴が拡大して接近する過程の観察から、それらの間の相互作用を探ることができる[2]。図1の写真は、同心円状に配置された原子ステップ(穴の端)が蒸発で拡大する過程のスナップショットで、グラフはそれぞれのステップ位置の時間変化である[3]。内側の原子ステップが外側の原子ステップに「追突」して2段のステップとして運動する様子を捉えている。このような解析は、結晶成長や蒸発の物理の定量的理解に大きな役割をはたす。
[1] Y. Homma et al., Phys. Rev. B 55 (1997) R10237.
[2] P. Finnie and Y. Homma, Phys. Rev. Lett. 82 (1999) 2737.
[3] P. Finnie and Y. Homma, J. Vac. Sci. Technol. A 18 (2000) in press.

  

図1 超平坦面上での原子ステップの運動

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