茅コンファレンスは、物性科学を中心として、ユニークな、しかし広い範囲の人達が興味を持つ主題の下に、学界、産業界の第一線にある研究者、技術者、教育者、大学院レベルの学生などが都塵を離れた景勝の地で、起居を共にしながら、十分に時間をかけて学び、語り合い、明日の研究の発展と新技術の開発のための息吹を汲みとることを目的とするものです。茅コンファレンスは茅誠司先生の退官を記念して発足しましたが、更に先生の喜寿のお祝いを記念して、我が国の産業界よりの寄付によって茅基金が日本学術振興会(以下、学振と略記する)に設立され、第15回以降はその経済的援助を得て運営されております。
 今回の、「第42回茅コンファレンス」は「量子情報処理の物理と技術」をテーマとして開催されます。量子情報処理は、状態の重ね合わせと量子もつれという量子力学の基本概念を動作原理とするもので、スケーラビリティのある固体系でこの基本概念を実現できれば、量子情報処理の可能性は一気に膨らむと期待され、最近急速に研究が進展しています。しかし、いざ固体系で実現しようとすると、様々な相互作用、散逸などのために途端に難しくなります。頼もしいことに、この数年、我が国においても次々と実験がなされ、各方面において俄かに研究が進展しています。本テーマでは、この機を捉えて、物性物理の立場から固体系量子情報処理の物理と技術について議論を深めると共に、今後を展望する予定です。
 具体的には、量子計算・暗号の基本的な考え方や古典計算・暗号との違い、様々な量子力学的状態、例えば、半導体中の電子スピンや原子核スピン、超伝導体のクーパ対、分子NMR、冷却原子など、を用いた量子計算の基本要素の形成、及び単一光子、エンタングル光子対を用いた暗号処理、さらには、関連する量子物性(コヒーレンスの破れ、近藤効果、電子相関など)を中心テーマとします。
 量子情報処理の研究は、まだ始まったばかりで、多くの開発すべき技術と解き明かすべき物理の課題が残されています。この時期に、広範な分野をカバーする一線の研究者が固体物理の立場から議論を深めることは極めて有用です。同時にまた、この長期的な研究分野を担うべき大学・民間企業の若手研究者、及び大学院生の多数の参加を期待しています。若手からシニアの研究者にわたり、基礎から応用を含めて集中した講演と質疑、またポスターセッションでの発表・議論を通して問題意識を共有し、互いに多くの示唆を得ることができればと考えています。
 
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