普遍な周期現象を利用して、時間を共有する道具が時計でした。かつての天文観測に代わり、現在では、遥かに正確な周期性をもつ原子の振動が時間を決めています。さらに進化した原子時計は、重力によって曲がった相対論的な時空を映し出すことで他者との時間共有の難しさを浮き彫りにする一方、原子時計が基礎をおく物理定数の恒常性まで研究の対象にしようとしています。

光格子時計は、魔法波長のプロトコルによって、超高速・高精度な新たな原子時計の可能性を提起しました。2001年の提案以来、現在までに20以上の研究拠点で開発が進み、その精度は、現行の国際単位系・SI秒の精度を遙かに凌駕し、秒の再定義を迫ろうとしています。最近、我々は、2台の光格子時計の比較で18桁の一致を実証しました。この時計精度では、地上で高低差1cmの重力ポテンシャル差さえ、重力赤方偏移として読み出すことが可能になります。 理研と東大に設置した2台の超高精度・光格子時計を光ファイバでつなぎ、時計の重力シフトを使って、重力のポテンシャルのマッピングを行う「相対論的測地」の実証実験、異種原子の高精度比較による物理定数の恒常性の検証など、次世代の時計の姿を展望します。

1964年9月27日生まれ。1988年東京大学工学部物理工学科卒業、1991年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程中途退学、同年東京大学工学部教務職員、のち助手。1994年工学博士。1994年マックス・プランク量子光学研究所・客員研究員。1997年科学技術振興事業団ERATO五神協同励起プロジェクト・基礎グループリーダー。1999年東京大学工学部附属総合試験所協調工学部門・助教授。2005年同大学大学院工学系研究科物理工学専攻助教授を経て、2010年同教授。同年より科学技術振興機構ERATO香取創造時空間プロジェクト研究総括、2011年からは理化学研究所、香取量子計測研究室主任研究員を兼務。

• 専門は量子エレクトロニクス、特に、中性原子・イオンのレーザー冷却・トラップ、極低温衝突、原子の精密計測・分光の研究。
• 主な受賞は、丸文研究奨励賞 (2001年)、第1回日本学術振興会賞（05年）、欧州周波数・時間フォーラム賞（05年）、ユリウス・シュプリンガー賞（05年）、丸文学術特別賞（06年）、日本IBM科学賞（06年）、ラビ賞（08年）、市村学術賞・特別賞（10年）、第12回光・量子エレクトロニクス業績賞（宅間宏賞）（11年）、文部科学大臣表彰・科学技術賞・研究部門（11年）、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞（11年）、朝日賞（12年）、東レ科学賞、藤原賞、仁科賞（13年）、紫綬褒章(14年)。
• 日本物理学会、応用物理学会、レーザー学会、会員

光による高速な情報処理は、それまでの電子技術を置き換える形で、現在の情報化社会を支える基幹技術の一つとなり、現在も様々な高性能光デバイスが次々と開発されています。しかし、光技術には物質中の光の振る舞いに起因する幾つかの限界があることもわかってきました。光処理は非常に高速ですが、一方、素子のサイズ、消費エネルギーは比較的大きく、大規模に集積した高機能な処理回路を光で作ることは至難の業です。

我々はこういった光技術の限界を乗り越える可能性を持つものとして、フォトニック結晶と呼ばれる材料に注目しています。フォトニック結晶とは、光の波長と同程度の周期で屈折率が変調された人工的な構造を指します。この周期性を制御することにより、通常の物質では不可能な様々な光学的性質が実現可能で、最先端のナノ加工技術を用いて構造作製が可能となったため、近年活発な研究が行われています。

フォトニック結晶はサブミクロンの領域に強く光を閉じ込めることが可能であり、従来技術では考えられない小型の光素子が可能になり、消費エネルギーも飛躍的に小さくできます。近年、ＮＴＴ研究所ではフォトニック結晶の集積技術を駆使して、レーザ、光スイッチ、光メモリなど様々なタイプの光デバイスの極限性能を追究しており、各種光デバイスの最低動作エネルギーの記録を塗り替えています。また、このような小型のナノ光素子に特殊な機能を集積したり、大量のナノ光素子アレイを１チップ上に集積したりすることもできるようになりつつあります。講演では、このような我々の研究の最新成果と今後の展望について紹介させて頂きます。

昭和63年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。同年日本電信電話（株）入社、NTT光エレクトロニクス研究所勤務。平成7年から8年リンシェピング大学（スウェーデン）客員研究員。平成11年よりNTT物性科学基礎研究所勤務。平成13年より特別研究員、平成22年より上席特別研究員。現在NTTナノフォトニクスセンタ長およびフォトニックナノ構造研究グループリーダ。入社以来一貫して人工ナノ構造による物質の光学物性制御及びデバイス応用の研究を行う。量子細線、量子箱の研究を経て、現在フォトニック結晶の研究に従事。工学博士（東京大学）。

• 主な受賞は、2006/2007 IEEE/LEOS Distinguished Lecturer Award受賞。平成20年度学術振興会賞受賞。平成20年度日本学士院学術奨励賞受賞。平成22年度文部科学大臣表彰科学技術賞（研究部門）受賞。
• 平成22年より文部科学省国立大学法人評価委員。2013年 IEEE Fellow。東京工業大学理学部物理学科連携客員教授を兼任。応用物理学会、APS、IEEE、OSA会員。