フォトニック結晶微小共振器による全光スイッチ
背景
光子は物質の双極子を介して相互に作用するので,全光スイッチで重要となる
効率的な光・光相互作用効果の実現は,大きな光・物質相互作用を得る問題に
帰着される.光デバイスは光波長に対して透明な物質を用いて構成したいが,
こうした物質は光との相互作用係数が小さい.一見矛盾するこの二つの要求を
満たすためには,新規構造を用いて光子密度を高めて実効的に光・物質相互作
用を強めればよい.
光共振器は光子をある空間に長時間閉じこめる性質を持つため,高い光子密度
を得る最適なデバイス構造である.共振器の光の閉じこめの度合いを示す指標
としてQ値と呼ばれる量が定義されている.より高い光子密度を得るためには
共振器のサイズを小さくすればよいが,従来の光の閉じこめ手法を用いたので
はQ値を高く保ったまま共振器のモード体積Vを小さくすることは難しかった.
しかしフォトニックバンドギャップ(PBG)を利用した光閉じこめを用いると極
めて大きなQ/Vを得ることができる.
研究の新規性及び独創性
我々はシリコンフォトニック結晶スラブを用いて高Q値フォトニック結晶微小
光共振器を作成した.このデバイスを用いると100ピコ秒を切る速度の全光ス
イッチを実現できる.さらに動作エネルギーは僅か数100フェムトジュールで
ある.(ピコ=1兆分の1,フェムト=1000兆分の1).シリコンを用いた全光スイッ
チデバイスとしてはこれまでで最小の値を得た.
研究のインパクト
従来の半導体プロセスとの親和性が高いシリコン材料を用いて,微小光回路に
つながる超低エネルギー動作スイッチが実現できた意義は大きい.加えて,本
デバイス中では,光は全てチップ面内を伝搬するので,微小平面光論理回路の
発展に貢献すると期待される.
動作原理
制御光を注入すると,二光子吸収キャリアによってシリコンの屈折率が変化し,
その結果共振器の共鳴波長が変調する.キャリアが存在しない時に信号光が共
振器の共鳴波長に一致していた場合,信号光は共振器を透過してくることがで
きる(ON状態).キャリアが生成すると信号光の波長と共振器の共鳴波長が一致
しなくなるので,信号光が透過できなくなる(OFF状態).共振器の共鳴波長と
信号光の波長の関係によっては,初期状態をOFF状態,制御光が入射している
時にON状態を取ることもできる.
参考文献
- 日経ナノビジネス(2005.07.11, No. 17, p. 7-8)
- T. Tanabe, M. Notomi, A. Shinya, S. Mitsugi, and E. Kuramochi,
"All-optical switches on silicon chip realized using photonic
crystal nanocavitites," Appl. Phys. Lett. (submitted for
publication).