Ge/Si系ヘテロ構造はデバイス応用と基礎研究の両面から非常に興味深い対象である。超格子のバンド構造は、界面における相互拡散や歪みの分布を強く反映しているため、界面の構造を原子レベルで制御する事はきわめて重要である。しかしながら、界面の詳細な原子構造については、未だ十分には知られていない。そこで、MBE成長したGen/Sim歪超格子の界面構造を、中速イオン散乱法(MEIS)を用いて解析した。
Ge/Si系の超格子では、格子不整合に起因して水平方向の歪みが生じ、それに伴い垂直方向に原子変位が引き起こされる。超格子層に埋め込まれたGe層は、理想的なGeの結晶構造と比較して、水平方向の圧縮歪みをうけたことにより縦伸びしていることが予想される。一方で、実験より得られたMEISのブロッキングプロファイル(図1)は理想的なバルク構造から期待されるブロッキング角(図中破線)によく一致し、超格子全体の歪みは4%の格子不整合から計算される値より小さいことが示されている。さらに、埋め込まれたGe層からの信号には、Si層からの信号には見られなかったディップ(図中矢印)が観察されている。このディップは単純な縦方向の原子変位だけからは説明できず、界面においてGe原子が縦方向のみならず横方向にも変位していることを示している。理想的な急峻界面を仮定した場合、Ge原子の結合の対称性より横方向の原子変位は考えられないが、Si層を成長している間のGeの表面偏析効果によりSiとGeの原子の入れ替わりが生じ、横方向の原子変位を引き起こしていると考えられる。このような横方向の原子変位は、縦方向の原子変位を減少させ、超格子層全体の歪みを小さく見せている。さらに、この特異なブロッキングディップは、図2に示すように、界面における2xNの長周期構造の存在を示唆している。
MEISを用いてSi4Ge12超格子の界面構造を実験的に求めた結果、界面のGe原子は縦方向のみならず横方向にも変位することにより界面に長周期構造を形成し、格子不整合に起因する歪みを緩和している事が分かった。
図1:(Ge4Si12)20歪超格子から得られたMEISのブロッキングプロファイル
図2:界面長周期構造のモデル