材料物性研究部 ※物質科学研究部
Si表面上水素はCVDなどの結晶成長において重要な役割を果たすだけでなく、 表面不活性化やヘテロ成長でのサーファクタントへの応用も進められている。化学 処理により比較的容易に表面を準備できる(111)基板では表面水素に敏感な赤外分 光法を用いた研究が多数発表されているが、実用上重要な(001)基板では、試料作 製が困難であるため、これまでスペクトルの帰属さえ確定していなかった。ここで は、新たに構築した超高真空中で試料作製と分光測定が可能な装置を用いてSi(001) 上水素の表面振動を測定し、そのスペクトルを非経験的分子軌道計算をもとに解析 した結果を示す。測定には埋め込み金属層を持つSi基板を用いた。そのため、伸縮 振動領域だけではなく、より立体構造に敏感ではあるが従来の赤外分光法では測定 が困難であった1000cm-1以下の変角振動領域でも単分子層以下の高感度で測定可能 である[1]。
図は種々の条件で観測されたスペクトルと電子相関を考慮したMP2/6-31G** レベルでのクラスタ計算の結果を対比したものである。欄外にmono-及びdi-hydride (M, D)構造での振動モードの摸式図と遷移モーメントの方向を示した。表面選択律 [1]によれば、表面Si層が比較的薄い(e.g.1000)場合、表面に垂直なモードのみが 観測されるのに対して、比較的厚い(e.g.伸縮振動領域では 3500=A変角振動領域では7000=j場合、主に横方向のモードが観測される。この表面選択律を考慮する と、計算結果は全体的にほぼ実験と一致しており、Si-H表面振動モードの帰属を決 めることができたことになる。さらに、trihydride (T)についての結果は、TとSiとの結合が表面に対して水平方向であることを示しており、Tがステップ端などの表面欠 陥に形成されていることを示唆する。また、M+D+Tの混合相である1x1表面がア ニールによってMのみからなる2x1相へと変化する様子も明瞭に観察できている。こ のように分子軌道法による解析の併用によって、赤外分光法がより強力な表面状態 のプローブとなることがわかる。
[1] Y. Kobayashi et al., J. Vac. Sci. Technol. A14, 2263(1996)、応用物理65, 1069(1996), Surf. Sci. 368, 102(1996).
図:H吸着Si(001)表面から観測された典型的な赤外反射スペクトルと計算結果(振動数を0.918でスケーリング)の対比。
Go back to 1996 Annual Report Index.
Go back to Ogino Group Home Page.
Yoshihiro Kobayashi / bigkoba@will.brl.ntt.co.jp