金ナノ構造の制御

棒状の金微粒子である「金ナノロッド」をベースに、生体由来の機能性分子を表面修飾した新しい『ナノバイオ複合材料』を設計しています。金ナノロッドは、比較的毒性が低く、表面プラズモン共鳴[注1]と呼ばれる現象により高い吸収・発色特性を示します。その波長帯は、ロッドの長さを調節することで、紫外〜近赤外領域まで幅広く制御できます。そのため、この材料はバイオアッセイ用ナノ材料としての応用が期待できます。

[注1]表面プラズモン現象(SPR:Surface Plasmon Resonance)
表面プラズモン共鳴とは金属表面で起こる光エネルギーと金属の電子振動との共鳴現象のこと。この現象により、金の微粒子が金色に見えないこともある。バイオ関連以外に光通信や光素子の分野でも応用される現象として世界的に研究がなされている。

金ナノロッドを用いたセンシング材料を開発
-分子の高感度検出や生体マーカーに応用-


金ナノロッドの表面に、イオンを識別するクラウンエーテル[注2]を修飾したナノバイオ複合材料を作製しました。この材料を用い、金ナノロッドの表面プラズモン吸収変化を調べることにより、生体内での重要な情報伝達物質であるナトリウムやカリウムなどのイオンを、選択的かつ高感度に検出するナノセンシング機能を見出しました。今後、この材料を細胞内に導入し、チャネルタンパク質から放出されるイオンの高感度検出や生体マーカーの機能を追跡します。

[注2]クラウンエーテル(Crown ether)
クラウンエーテルとは環状構造をもつある種の分子。王冠の形に見えることからその名が付いた。クラウンエーテルは環の中に金属イオンを取り込むことができ、環の大きさにより取り込める金属イオンの種類も異なる。

金ナノロッドの基板上での自己集積化
-超高感度1生体分子検出やナノ光学材料-


この複合材料をシリコン基板上に展開し、基板上での金ナノロッド配列集積化に成功しました。ここでは、生体分子特有のプログラム自己組織化機能[注3]を巧みに利用しています。また基板上で、金ナノロッドを1次元、2次元(水平方向または垂直方向)に制御することも可能です。この基板は、ラマン、蛍光などの光学物性の増強効果を発現するため、超高感度な生体1分子検出チップが作製可能です。

[注3]プログラム自己組織化
ここではDNAの塩基対のように、ある決まった法則(=プログラム)にしたがって脂質分子に囲まれた金ナノロッドが集合体を作るという意味。脂質分子は細胞膜の重要な構成要素で、細胞の内外は脂質分子で分け隔てられている。
  • H. Nakashima et al., Chem. Commun., 10, 1080 (2007).
  • Near-Field Optics and Surface Plasmon Polaritons, edited by S. Kawata (Springer-Verlag, 2001).