GaAsカンチレバーにおけるキャリアを介した光−機械結合

岡本創 小野満恒二 眞田治樹 後藤秀樹* 寒川哲臣 山口浩司
量子電子物性研究部 量子光物性研究部

 近年、マイクロメカニカル素子における光−機械結合が注目されている[1、2]。光キャビティーにより生み出される放射圧や光熱応力によりメカニカル素子は反作用を受け、振動の増幅や自励発振、また減衰や振動モードの冷却が実現する[1、2]。これに対して、最近我々は光キャビティーを必要としない新しい光−機械結合を見出した[3、4]。これは光励起により生み出されるキャリアを介した光−機械結合であり、バンドギャップ波長近傍のcwレーザ照射によりGaAsカンチレバーの振動振幅が変化する。以下ではn-GaAs/i-GaAs 2層構造カンチレバー[図1(a)]において観測されたキャリアを介した光−機械結合について述べる。
 この新しい光−機械結合は励起キャリアにより生み出される圧電効果に起因している。光励起された電子と正孔は2層構造による内部電界により空間的に分離し、カンチレバーを構成するGaAsに圧電応力が生ずる。この光圧電応力がカンチレバーに反作用を与え、カンチレバーの熱振動は影響を受ける。[110]方位を向いたカンチレバーではこの反作用が正のフィードバックを与え、熱振動は増幅する[図1(b)]。またレーザ強度が閾値を超える(Pex > 10 µW)とダンピングが消え、カンチレバーは自励振動する[図1(b)]。一方、[-110]方位を向いたカンチレバーでは圧電効果が逆向きとなるため負のフィードバックが生み出され、振動の減衰が起こる[図1(c)]。この光圧電効果によるフィードバックは歪による光吸収変化に大きく依存しており、歪に敏感な吸収端近傍のレーザ波長(λex = 840 nm @ 50 K)において反作用は増強される[4]。このキャリアを介した光−機械結合は、従来の光−機械結合に比べ半導体光デバイスとの融合性において大きな利点がある。また、キャリアの動的過程や歪効果、キャリアに関連したエネルギー散逸などの半導体特性を研究するツールとしても期待される。

[1] I. Favero and K. Karrai, Nature Photon. 3 (2009) 201.
[2] C. H. Metzger and K. Karrai, Nature 432 (2004) 1002.
[3] H. Okamoto et al., Appl. Phys. Express 2 (2009) 035001.
[4] H. Okamoto et al., Phys. Rev. Lett. 106 (2011) 036801.
 

図1  (a)カンチレバーのSEM像。カンチレバーは100 nm厚のn-GaAsと200 nm厚のi-GaAsからなる2層構造 を有する。
Ti:Sa cwレーザは歪の大きなカンチレバーの足部に照射。カンチレバーの熱振動はHe:Ne cwレーザを用いて
レーザ干渉計により検出。測定は真空中、50 K。 (b) [110]方位カンチレバーと(c) [-110]方位カンチレバーに
おける変位ノイズパワースペクトルのレーザ強度依存性(λex = 840 nm)。

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