トンネルエネルギー可変型磁束量子ビットのコヒーレント制御

Xiaobo Zhu Alexander Kemp 齊藤志郎 仙場浩一
量子電子物性研究部

 超伝導磁束量子ビットは、量子プロセッサの構成要素として有望視されている。回路を巡る超伝導電流間のトンネル過程を試料に備わった2つの制御ラインから随時調節可能なこの改良型の量子ビットでは トンネルエネルギーの可変制御に加えてσx結合も可能となった。この改良に伴い、磁束量子ビットの様々な応用の可能性が拓かれた。例えば、複数量子ビットに拡張可能なON/OFF比の大きなスケーラブルな量子バス実現の可能性[1]や、σx結合を用いた量子非破壊測定可能な固体デバイスへの発展などである[2]。
 最近、私達は磁束量子ビットを構成する最小のジョセフソン接合をDC-SQUIDで置き換えることにより、超伝導磁束量子ビットのトンネルエネルギーのその場制御の実証に成功した。量子ビット近傍に備え付けた制御ラインへ電流パルスを印加することで、nsの時間スケールで量子ビットのトンネルエネルギーを数GHz程度変えることが可能である(図1)。
 量子ビットの基底状態と第一励起状態間でのラビ振動は、最も基本的な量子ビットのコヒーレント状態制御である。図2(a)に、量子ビットの最適磁束動作点で観測されたラビ振動を示す。測定は、2つの制御ラインを流れる電流をそれぞれ一定に保つことで、トンネルエネルギーを所望の値に保ち、量子ビットのエネルギーに共鳴したマイクロ波パルスの照射時間を変えて行った。これらパルス列の直後の読み出しパルスによって、量子ビットの状態測定を行う。即ち、状態読み出しまでの一連のパルス列を各条件下で2000回繰り返すことにより、基底状態と第一励起状態の比占有確率を測定できる。照射する共鳴マイクロ波の強度を変えながら測定を行い、図2(b)に示すようにラビ周波数がマイクロ波強度に線型に依存することを確認した。この振動がラビ過程に起因することを裏付けるものである[3]。

[1] Y. D. Wang, A. Kemp, K. Semba, Phys. Rev. B 79 (2009) 024502.
[2] Y. D. Wang, X. Zhu, and C. Bruder, Phys. Rev. B 83 (2011) 134504.
[3] X. Zhu, A. Kemp, S. Saito, and K. Semba, Appl. Phys. Lett. 97 (2010) 102503.
 

 
図1  超伝導磁束量子ビットのエネルギースペクトル
トンネルエネルギー共鳴周波を (a) 3GHz、
(b) 5GHz、(c) 7GHzと変化させた場合。
図2  (a) 最適磁束バイアスにおいて共鳴マイクロ波強度
を変えて測定したラビ振動。 (b) 観測されたラビ
振動数のマイクロ波強度に対する線型依存性。

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