超伝導量子ビットを用いた量子ゼノン効果

松崎雄一郎 齊藤志郎 角柳孝輔 仙場浩一
量子電子物性研究部

 量子力学が予言する興味深い現象の1つに、量子ゼノン効果と呼ばれる、頻繁な測定により不安定系の減衰を抑制する現象が挙げられる[1]。ノイズの相関時間より短い時間領域では不安定系は二次関数的に減衰することが知られており、この時間領域で測定を繰り返すことで量子ゼノン効果は起こるとされている[1]。しかしながらほとんどのノイズの相関時間は、現在の技術で構成できる測定器の時間分解能よりも短く、そのため二次関数的な減衰の観測は一般的には困難である。この事実が量子ゼノン効果の実証を困難にし、実際に不安定系に対する量子ゼノン効果が実験的に観測された例はまだ1つしか存在しない[2]。
 我々は、不安定系に対する量子ゼノン効果を、超伝導量子ビットを用いて実証する方法を理論的に提案した[3](図1)。量子ビットは通常、「エネルギー緩和」と「位相緩和」の2つの減衰過程を持つ。超伝導量子ビットにおいては、エネルギー緩和過程は指数関数的な減衰を示すものの、位相緩和は主に相関時間が無限大である1/fノイズ(fは周波数をあらわす)によって引き起こされるため、二次関数的な減衰を観測することが比較的容易であると考えられる。我々はマスター方程式を解き、エネルギー緩和時間が位相緩和時間よりも十分に長ければ、測定の回数を増やすことで状態を目的のヒルベルト空間に射影する確率(成功確率)を上げられることを示した(図2)。また、ポストセレクションをせずに測定を行った場合でも、測定の頻度を上げることで位相緩和を抑えることが可能になることを示した。これらの結果は、超伝導量子ビットを用いることで、現在の技術でも量子ゼノン効果は実証可能であることを示している。

[1] B. Misra et al., J. Math. Phys. 18 (1997) 756.
[2] M. C. Fischer et al., Phys. Rev. Lett. 87 (2001) 040402.
[3] Y. Matsuzaki et al., Phys. Rev. B. 82 (2010) 180518.
 

 
  
図1  超伝導量子ビットを用いて量子ゼノン効果を
観測するためのスキーム。
図2  上から順に、t=20、25、30、35 (ns)の時間間隔で、
N回射影測定を行ったときの成功確率(P)のプロット。

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