東京QKDネットワーク

玉木潔 本庄利守 武居弘樹 都倉康弘
量子光物性研究部

 NICTからの受託研究を引き受けた3社NTT、NEC、三菱電機、そして受託研究とは別に欧州からAIT、Id Quantique、東芝欧州研究所が各社の量子鍵配送(QKD)装置を東京の光ファイバー網で相互接続し、試験運用を開始した。これを東京QKDネットワークと呼ぶ。
 量子鍵配送は、第3者に情報を漏らさずに安全に通信を行うために必要な秘密鍵、というランダムなビット列を配布するための手段である。この配送方式では、量子力学という誰にも変えることができない自然法則を利用することによって盗聴を防ぎ、通信装置さえ理論通りに動けば、原理的に絶対に破ることができない暗号として期待されている。
 東京QKDネットワークはNICTの都心とその近傍に敷設された光通信テストベットネットワークJGN2plus上の6つのノードからなり(図1)、その内の2つのノード間では動画伝送がリアルタイムで行える鍵生成速度を有する。NTTは長距離伝送である約90 kmの通信(小金井−大手町間の往復)を担当し、2 kbpsの秘密鍵生成率を達成した。
 NTTが今回の東京QKDネットワークで実装した差動位相シフト量子鍵配送(DPS-QKD)プロトコル[1]は、NTTとスタンフォード大が共同で提案したQKD方式で、システムの構成が簡略であり、したがって実装が容易、という特徴を持つ方式である。
 QKD装置を高速で動作させるためにField-Programmable Gate Arrayを用いて1GHzクロックでの乱数発生、高速信号発生、および高速メモリアクセスを実現し、NICTが開発した超伝導体を用いた単一光子検出器の偏波依存性を消すために偏波調整フィードバック機構を実装した。この実験装置から得られたシフト鍵は、NECが開発した鍵蒸留基盤によるデータ処理を経て秘密鍵に変換され、ネットワーク上の暗号通信に使われる。
 これらの高速化や安定化の対策により、約8日間にわたるシフト鍵生成を確認し、約18 kbpsのシフト鍵生成率を達成した。このシフト鍵を鍵蒸留基盤に入力することにより、約2 kbpsの生成率で秘密鍵が生成できた(図2) [2]。
 本研究はNICTの援助を受けて行われた。

[1] K. Inoue et al., Phys. Rev. A 68 (2003) 022317.
[2] M. Sasaki et al., Opt. Express 19 (2011) 10387.
 

図1  ネットワークの概略図。
 
図2  シフト鍵生成レート、秘密鍵生成レート、
量子ビットエラーレートの時間変動。

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