単一量子ドットを用いた共振器量子電磁力学

俵毅彦 鎌田英彦 Stephen Hughes
量子光物性研究部 クイーンズ大学

 固体電子二準位系を用いた共振器量子電磁力学(cQED)は、単一光子レベルでの非線形相互作用の発現や光子-物質間の量子情報の変換など、量子情報処理デバイスへの応用が期待されている。一方で従来用いられてきた真空中にトラップされた原子・イオンとは二準位系を取り囲む環境が異なり、その光学応答の解釈は単純ではない[1]。本研究ではcQEDの代表的な現象である自然放出レートの増強(弱結合状態)や輻射場と二準位系の間の可逆的エネルギー交換(強結合状態)における固体二準位系特有の光学応答を見出し、そのメカニズムを明らかにした。
 電子二準位系として自己組織化半導体量子ドット(QD)が、スラブ型フォトニック結晶ナノ共振器中に埋め込まれた。ターゲットとなるQDが電磁界強度の最大値から僅かにずれた場所に位置する場合(図1:弱結合状態)のPLスペクトルでは、温度変化に伴いQD励起子(X)・共振モード(C)ともにピーク位置がシフトする。しかし相互作用がない場合(点線)にくらべ弱結合状態ではそれぞれのピークが引き寄せ合う新たな現象(mode attraction)が観測された[2]。またターゲットQDが電磁界強度の最大値にある場合(図2)、そのPL強度マップの離調依存性は強結合状態の特徴であるRabi分裂を伴う非交差分散を示す。このとき励起強度を増加させると、分裂ピークの中央から新たなピークが出現しRabi分裂を消失させるが、非交差分散は維持されている。これら従来のcQEDでは説明できない弱・強結合両状態における現象に対し理論解析を行った結果、QD励起子の大きな位相緩和とスラブ型共振器構造からの光放射特性に由来する固体系cQEDの特有の現象[3]であることが分かった。
 本研究の一部は総務省SCOPEの援助を受けて行われた。

[1] 例えばK. Hennessy et al., Nature 445 (2007) 896.
[2] T. Tawara et al., Opt. Express 18 (2010) 2719.
[3] S. Hughes et al., Opt. Express 17 (2009) 3322.
 

図1  弱結合領域でのPLスペクトルの温度依存性。
図2  強結合領域でのPLカラーマップとゼロ離調
スペクトルの励起強度依存性。

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