AlN/GaN 短周期超格子からの深紫外発光

谷保芳孝 嘉数誠
機能物質科学研究部

 AlGaNは直接遷移型半導体であり、組成を変えることで発光波長を深紫外域の210 nm(AlN)から近紫外域の365 nm (GaN)まで任意に制御できるため、紫外発光ダイオード(LED)用材料として期待されている。現在のところ、深紫外LEDの発光効率は、近紫外LEDよりも低い。この原因のひとつに、AlGaNの価電子帯構造に由来する本質的な問題がある[1]。GaNの価電子帯の最上端には重い正孔帯が位置する。伝導帯と重い正孔帯間の光学遷移は、電場ベクトルEがc 軸と垂直な場合に許容となるため(E⊥c 偏光)、GaNではC面からの発光が強い。一方、AlNの価電子帯の最上端には結晶場分裂正孔帯が位置する。伝導帯と結晶場分裂正孔帯間の光学遷移は、電場ベクトルEがc 軸と平行な場合に許容となるため(E||c 偏光)、AlNではC面からの発光は弱い。LEDは良好な結晶が得られるC面成長するため、高Al組成AlGaNを用いる深紫外LEDでは光取り出し面となるC面からの発光が弱く、発光効率が低いことがその問題である。この問題の解決へ向け、AlGaNとは異なり、AlN/GaN短周期超格子がC面から強い深紫外発光することを示す[2]。
 AlN/GaN短周期超格子の透過電子顕微鏡(TEM)像を図1に示す。GaN井戸層の膜厚は0.48 nm(1.8分子層)、AlNバリア層の膜厚は1.82 nm(7.1 分子層)である。GaNとAlNの界面は急峻であり、分子層オーダで膜厚が精密に制御された超格子構造が成長していることがわかる。このようなAlN/GaN短周期超格子の発光特性をフォトルミネッセンス(PL)で評価した。GaN井戸層の膜厚を2.5 分子層から0.9分子層まで薄くすると、量子サイズ効果により発光波長は275.8 nmから236.9 nmまで短波長化した。AlN/GaN短周期超格子とAlGaNの偏光特性を比較するため、PLの角度依存測定を行った(図2)。AlGaNではE||c 偏光のためc軸方向への発光は弱い。一方、AlN/GaN短周期超格子ではc軸方向の発光が強い。この理由は、正孔の量子準位がGaNの重い正孔帯により形成されるため、電子と正孔の量子準位間の発光はGaNと同様にE⊥c 偏光しているからである。これら偏光特性の違いにより、AlN/GaN短周期超格子はAlGaNよりも4倍強い深紫外発光を示した。そこで、AlN/GaN短周期超格子を発光層とする深紫外LEDを作製したところ、実際のデバイス構造においてもC面から強い深紫外発光が得られた

[1] Y. Taniyasu and M. Kasu, Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 261911.
[2] Y. Taniyasu and M. Kasu, Appl. Phys. Lett. 99 (2011) 251112.
 

  
図1  (a) AlN/GaN短周期超格子の断面TEM像と
(b)その高倍率像。
図2  (a) AlN/GaN短周期超格子と
(b)AlGaNのPL角度依存性。

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