Al2O3 パッシベーションによる水素終端ダイヤモンドFET の安定動作

平間一行1 佐藤寿志1 原田裕一2 嘉数誠1, 3
1機能物質科学研究部 2量子電子物性研究部 3 佐賀大学

 ダイヤモンドは高い絶縁破壊電界やキャリア速度を兼ね備えた半導体であることから、高周波高出力電力デバイスへの応用が期待されている。我々はこれまでに水素終端ダイヤモンド表面近傍に形成する正孔蓄積層をチャネルに利用したダイヤモンドFETを作製し、マイクロ波帯域における高い出力電力動作を報告している[1]。しかし高温環境では、正孔蓄積層を形成するために不可欠な二酸化窒素(NO2)等の吸着分子が脱離し、ドレイン電流が減少する問題があった。 そこで我々は、水素終端ダイヤモンド表面に高濃度のNO2分子を吸着させて正孔を誘起後、Al2O3薄膜でパッシベーションすることで、水素終端表面と吸着分子の熱的安定化を行った。Al2O3薄膜の形成には原子層堆積法(ALD法)を用いた。
 図1(a)(b)は真空中で測定した正孔密度と移動度の温度依存性である。複数回測定を行った結果、再現性の良い正孔密度と移動度の温度依存性が得られている。正孔密度は-170℃から230℃の広い温度範囲でほぼ一定であり、約4×1013 cm-2の高い値を示した[図1(a)]。一方、移動度は高温域で絶対温度のマイナス1乗に比例することがわかった[図1(b)]。これは水素終端表面の正孔が金属的に縮退していることを示していると思われる[2]。このように真空高温環境下で正孔密度が変化せず、信頼性の高い伝導性評価が可能になったことから、次にAl2O3 パッシベーションをダイヤモンドFETに適用した。
 図2は、真空中200℃加熱中およびその前後の室温における、パッシベーションしたダイヤモンドFETのドレイン電流・電圧(IDS-VDS) 特性である。200℃加熱前の最大ドレイン電流(IDSmax)は-200 mA/mmである。200℃加熱で最大ドレイン電流は-180 mA/mmに減少するが、室温まで温度を下げると加熱前の-200 mA/mmに回復した。閾値電圧は測定温度に依存せず、室温と200℃で+1Vであった。これはゲート電極近傍の正孔密度が変化していないことを示している。そのためIDSの温度依存性は移動度の温度依存性に対応する。このようにIDS-VDS特性は200℃加熱前後で変化がなく、初めて真空200℃のヒートサイクルで劣化のないダイヤモンドFETが実現した。

[1] M. Kasu et al., Electronics Lett. 41 (2005) 1249.
[2] M. Kasu, H. Sato, and K. Hirama, Appl. Phys. Express 5 (2012) 025701.
 

  
図1  ホール効果測定で評価した(a)正孔密度と
(b) 移動度の温度依存性。
図2  真空中で測定したダイヤモンド
FETのIDS-VDS特性。

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