微小機械振動子の遠隔励振

畑中大樹 Imran Mahboob 山口浩司
量子電子物性研究部

 微小機械振動子は、その小さい質量と高いQ 値により、高感度センサ[1]や機械演算デバイス[2]、量子効果の観測[3]等への応用のため昨今注目されている。その応用において、機械振動を電気的に励振する手法が重要な要素技術となっているが、これまでの手法は振動子に形成した電極に直接電気信号を加えることにより振動を誘起するため、発生するジュール熱や電極の影響による機械特性の劣化が伴っていた。この問題を踏まえ、我々は直接的な電圧印加が不要な、高周波(RF)電磁波による新しい遠隔励振法を提案した[4]。
 本研究で用いた微小機械振動子は、二次元電子ガス(2DEG) / 金トップゲート(TG)電極から成るメサ構造を梁の両端に有しており、ガリウムヒ素(GaAs) /アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)多層膜構造により作製した。また、その機械振動子の周囲にはRF電磁波のソース源であるコイルを配置した(図1)。200 mK以下の極低温・高真空下において、機械振動子は172990.5 Hzの共振周波数を持つ(図1の挿入図)。一方、素子に印加されるRF電磁波の強度は、コイルの持つLC 共鳴により強いRF周波数(fcoil) 依存性を持ち、図2の上図に示す反射強度が弱い周波数において、強いRF電磁波が照射される。素子に加えるRF電磁波を周波数(fAM)で振幅変調し、fcoilとfAMを変化させた時の、機械振動子の振幅を図2の下図に示す。共振周波数に近い fAMにおいて機械振動子の共振が観測された。機械共振の発現するfcoil がコイルのLC 共鳴点とほぼ一致していることから、機械振動子がRF電磁波によって遠隔的に励振されている事が示される。本研究で提案した非接触型の遠隔励振法を用いれば、機械振動子に負荷をかけずにその励振が可能となり、機械共振器を用いた様々な分野への応用が期待される。

[1] A. N. Cleland and M. L. Roukes, Nature 392 (1998) 160.
[2] I. Mahboob and H. Yamaguchi, Nature Nanotech. 3 (2008) 275.
[3] A. D. O'Connell et al., Nature 464 (2010) 697.
[4] D. Hatanaka et al., Appl. Phys. Lett. 99 (2011) 103105.
 

図1  微小機械振動子と測定セットアップの模式図。
挿入図は機械振動子のピエゾ加振周波数(fpiezo)
応答。
図2  コイルの反射率とRF強度-25 dBmの
AM RF電磁波照射下における機械振動
子のRF周波数依存性。

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