超伝導磁束量子ビットを介した共振器と量子二準位系との結合

Alexander Kemp 齊藤志郎 William John Munro 仙場浩一
量子電子物性研究部 量子光物性研究部

 超伝導量子ビットの研究分野では、現在、超伝導共振器中のマイクロ波光子を介した多ビット化の実験が盛んに行われている[1]。また、超伝導量子ビットとその近傍にある量子二準系(TLS)の結合も確認されている[2]。我々は、マイクロ波光子とTLSのエンタングル状態を、超伝導量子ビットを仲介して、オンデマンドに生成することに成功した[3]。
 図1(a)に磁束量子ビットのマイクロ波による分光測定結果を示す。6.17 GHzと8.95 GHzに、それぞれTLSと共振器によるエネルギー反交差が見られる。量子ビットとの結合エネルギーは55 MHzと154 MHzである。磁束量子ビットの励起エネルギーは外部磁場により制御できるため、矩形パルス磁場により量子ビットと共振器中のマイクロ波光子(またはTLS)との任意のエンタングル状態を実現することができる。我々は、この矩形パルスを応用し、量子ビットを介したマイクロ波光子とTLSのエンタングル状態を実現した。
 図1(b)に実験で用いたパルス配列を示す。まず量子ビットへのRF-πパルスにより、系を励起状態 |100>に準備する。ここで状態は| 量子ビット、TLS、共振器中マイクロ波光子>を表す。次に、 矩形パルスにより、量子ビットとTLSを共鳴させ、量子ビットとTLSのエンタングル状態(|100> + |010>) / を作る。さらに量子ビットとマイクロ波光子を共鳴させるSWAP矩形パルスにより、エンタングル状態(|001> + |010>) / が実現される。その後、時間τ だけ系を自由発展させることにより|001>と|010>の間には相対位相φ = ΔE τ/ηが生じる。ここで、ΔEは|001>と|010>のエネルギー差である。この状態を読み出すために、先程と逆の順番で2つの矩形パルスを印加すると、位相φ の時間発展が量子ビットの励起状態占有率Pex の振動として観測される(図2)。図2ではPexが周波数ΔE/hで振動しており、自由発展中にマイクロ波光子とTLSのエンタングル状態が実現されていたことが解る。
 今後は、TLSを制御性の良い量子メモリへ置き換え、量子メモリを有する超伝導量子ビットの多ビット化を目指す。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] L. DiCarlo et al., Nature 467 (2010) 574.
[2] R. W. Simmonds et al., Phys. Rev. Lett. 93 (2004) 077003.
[3] A. Kemp et al., Phys. Rev. B 84 (2011) 104505.
 

 
図1  (a)量子ビットの分光測定。 (b) 用いたパルス配列。
図2  量子ビットの励起状態占有確率Pexの(a) τ 依存性、
および (b)フーリエスペクトル。

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