連続発振半導体レーザからのGHz 繰返しフェムト秒光パルス発生

量子光物性研究部

 GHzの繰返しを持つフェムト秒レーザは、ナノメカ評価やナノバイオ観察のための多光子励起顕微鏡用の光源や高速光サンプリングやキャリアエンベロープオフセットロック広モード間隔光周波数コム[1]の実現に対して有用である。フェムト秒のパルス幅を持つ光パルス列を発生させる一般的な方法はモード同期方式によるものである。しかしながら、レーザの共振器長が繰返し周波数に対応するために、1 GHz以上の繰返しを持つフェムト秒光パルス列を発生させることは困難である。さらに、繰返し数と中心波長のチューニング範囲も狭い。そこで我々は、市販の光位相変調器と光強度変調器および標準的なシングルモードファイバを用いて、繰返しと中心波長が可変なGHz繰返し光パルス列を発生させる方法を提案した。
 中心波長1552 nmの連続発振半導体レーザ(CW LD)からの光の位相をRFシンセサイザーからの25 GHz正弦波で駆動する光位相変調器を用いて変調する。これにより、25 GHz繰返しの周期的なアップアンドダウンチャープが生じる。そして線形なダウンチャープ部分を光強度変調器で切り出すことにより、バンド幅24 nmのフラットな光周波数コムスペクトルを作ることができる。この光をシングルモードファイバで分散補償することにより、パルス幅230 fsの25 GHz繰返し光パルス列を発生させることに成功した。さらに、光ゲートにより繰返しを1 GHz(または250 MHz)に落としてからエリビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)により平均出力1 Wにまで増幅を行う。これによりEDFA内でのピーク強度は数kWに達し、自己位相変調効果によりスペクトルブロードニングが生じる。そしてスペクトル幅が広がったパルスを、長さ1 mのガラスブロックを用いて圧縮を行った。その結果、平均出力1 Wの、繰返し1 GHzでパルス幅120 fsおよび、繰返し250 MHzでパルス幅80 fsの光パルス列の発生に成功した[2]。図1には後者の場合のスペクトルおよび自己相関波形を示す。我々が知りうる限り、これはこの繰返し周波数において、CWLDをシード光に用いて発生させた光パルスの最短パルス幅である。我々の手法では、RFシンセサイザーの光変調器駆動周波数とシードに用いるLDの波長を変えることにより、繰返しと中心波長が広範囲に可変なサブ100 fs レーザを提供することが可能となる。これらの特徴により、我々が提案するレーザシステムは、様々な利用分野での重要なツールとなる。

[1] A. Ishizawa, T. Nishikawa et al., Electron. Lett. 46 (2010) 1343.
[2] A. Ishizawa, T. Nishikawa et al., Optics Express 23 (2011) 22402.
 

図1  250 GHzゲート利用時の(a)スペクトルおよび(b)自己相関波形。

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