Nd2CuO4とNd1.85Ce0.15CuO4における普遍的な超伝導基底状態

クロッケンバーガー賢治 山本秀樹 内藤方夫
機能物質科学研究部 東京農工大

 銅酸化物高温超伝導体には一般に電子ドープ型とホールドープ型と呼ばれる2種類の物質群があり、この呼び方からは、両者の違いがドーパントの価数のみにあるかの印象を受ける。しかしながら、実際は超伝導を担うCuO2面の銅への酸素の配位にも違い(前者は4配位、後者は5ないし6配位)があり、物性はこの局所的な構造の違いにも大きく依存する。この局所構造の違いは最適な試料作製条件にも影響を与え、4配位の場合については、超伝導発現が試料作製後の還元アニール処理と密接に関係していることが知られている。本研究では、そのアニール条件の最適化により、反強磁性絶縁体だと考えられてきた母物質のNd2CuO4 (NCO)が超伝導化すること、NCOの超伝導状態がいわゆる最適電子ドープされたNd1.85Ce0.15CuO4 (NCCO)のそれと本質的に変わらないことを明らかにした。この結果は、母物質における反強磁性絶縁体状態が高温超伝導の発現に普遍的に必要というわけではないことを示唆しており、従来の常識に反するものである。
 NCOとNCCOの薄膜試料はMBE法により(001)SrTiO3基板上に作製した。成膜後、NCCOは超高真空装置中でその場アニール、NCOは管状炉を用いて2段階法でアニールした[1-4]。アニールの各ステップにおける薄膜試料の構造は、高分解能のX線逆格子マップにより調べた。アニールにより両者ともにc軸長が単調に短くなったことから、超伝導を阻害する頂点酸素が除去されたことが示唆される。また、アニールを通じて面内格子定数(a軸長)が不変であったことから、アニール由来の酸素欠損などによる電子ドープの可能性はないと考えられる。さらに印加磁場を変えて測定した抵抗率の温度依存性(図1)の結果は、NCOとNCCOの電子物性が本質的に同じであることを示した。両者は金属的な抵抗率の温度依存性を示し、かつ同じ印加磁場強度下では、ほぼ等しい超伝導転移温度Tcを示した。これらの結果は、4配位のCuO2面はその固有の性質として金属的な電子状態を有すこと、キャリアをドープし反強磁性長距離を壊すと考えられてきた、異価数元素(Ce)置換の役割は、バンドフィリングコントロールであること、の2点を示唆する。

[1] Y. Krockenberger et al., Phys. Rev. B 85 (2012) 184502.
[2] Y. Krockenberger et al., Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 010106.
[3] H.Yamamoto et al., Physica C 470 (2010) 1025.
[4] H.Yamamoto et al., Solid State Commun. 151 (2011) 771.
 

図1  (001)SrTiO3基板上にMBE成長した後アニールを施した、超伝導NCCO(上図)とNCO(下図)の抵抗率の温度依存性。B = 0, 1, 2, 4, 6, 8, 10, 12, 14 Tのそれぞれの印加磁場下で測定を行った。

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