フォノンを用いたキャビティエレクトロメカニクス

Imran Mahboob 西口克彦 岡本創 山口浩司
量子電子物性研究部

 昨今、光キャビティと機械共振器間の結合に関するキャビティオプトメカニクスの研究が盛んに行われている [1]。そこでは、機械共振器の運動が光キャビティの共振波長の変化を引き起こすパラメトリック相互作用により両者の結合が引き起こされる。すなわち、2つの共振の差と和にあたる周波数に共振器のサイドバンドが現れ、そのサイドバンドを光励起することにより光キャビティと機械共振器間の結合が実現される。その結果、原子系における電磁誘導透明化(EIT: Electromagnetically-Induced Transparency)と等価な現象が生じ、光と機械共振器間のエネルギー変換が実現する。類似の現象は2つの機械共振間においても実現できると予想され、高周波数共振器をキャビティと見なせば同様にエネルギー変換が実現でき、低周波数の共振に対してモード冷却を実現することが可能となる。
 本研究では、機械共振器における第1モードを通常の機械共振、第2モードをキャビティとして扱い、2つの共振モードを用いたフォノン系のみによるモード間結合を実現した。共振器を形成する梁に張力を加えるとモード混合が起きる。これより、この張力を周期的に変調(ポンプ)すると、その周波数だけ離れた位置にもとの共振のサイドバンドが生じる。このサイドバンドがもう1つのモードと一致した場合、すなわち変調周波数が2つの共振周波数の差に一致する場合、2つのモード結合が生じる。
 実験は圧電効果を用いた振動制御が可能なGaAs/AlGaAs機械共振器を用いた(図1)。第1の共振モードは171.3 kHz、キャビティとして用いる第2の共振モードは470.9 kHzである。表面ゲートに電圧を印加すると、圧電効果によって張力が生じる。この変調周波数を2つのモードの差周波に一致させるとモード間結合が実現できる。図2はこの変調周波数(Pump frequency)と第2モードの励振周波数の関数として、第2モードの振動振幅を濃淡プロットしたものである。強結合の特徴である反交差特性が明確に観測される。この特性は、EITと同様に共振スペクトルに透明化現象が生じていることを意味し、さらにノイズに対する1次モードの応答においては冷却効果が確認された [2]。

[1] T. Kippenberg and K. Vahala, Science 321 (2008) 1172.
[2] I. Mahboob et al., Nature Physics 8 (2012) 387.
 

図1  用いた電気機械共振器のSEM像と測定セットアップの模式図。
図2  強い張力変調(ポンプ)に対する第2モードの共振特性。縦軸は第2モードの励振周波数。横軸はポンプ周波数。

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