トリオン−2次元電子正孔クロスオーバの証拠

山口真澄 *野村晋太郎 田村浩之 赤崎達志
量子電子物性研究部 *筑波大学物理学域

 2個の電子と1個の正孔で形成されるトリオンは、残留電子密度が小さい半導体量子井戸において光励起下の安定な束縛状態であり、電子密度の増加に伴って2次元電子ガスと正孔(2DEG-h)という非束縛状態へとクロスオーバする(図1)。これは、電子正孔間のクーロン引力が周囲の2次元電子ガスによって遮蔽されるからである。しかしながら、試料には必ず空間的に非一様な乱雑静電ポテンシャルが存在するために、このクロスオーバを確かめるのは簡単ではない。低電子密度において電子は静電ポテンシャルの谷に局在するが、クロスオーバが起こる電子密度と、この電子の局在が起こる電子密度が重なるためである。
 本研究では、非ドープのGaAs量子井戸の発光スペクトル測定によってクロスオーバを調べた[1]。これまで一般的に使われてきた変調ドープ型の量子井戸とは異なり、乱雑ポテンシャルの空間長さスケールが大きいため、電子の局在はトリオンと2DEG-hのクロスオーバよりもはるかに小さい電子密度で起こる。したがって、我々の試料では電子の局在とクロスオーバははっきりと区別できる。我々は、電界下における発光線幅の変化からトリオンの有効半径a*の電子密度依存性を求めた(図2)。スクリーニング長は非線形遮蔽モデルにより見積もられるが、a*はスクリーニング長が減少するne = 2×1014 m-2を超えたところで急激に増大する。これは2次元電子ガスの遮蔽によってトリオンが2次元電子ガス‐正孔状態へとクロスオーバしている明確な証拠である。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] M. Yamaguchi et al., Phys, Rev. B 87 (2013) 081310(R).
 

 
図1  トリオン状態と2次元電子−正孔状態。
図2  リオン半径の電子密度依存性。
挿入図:スクリーニング長の電子密度依存性。

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