シリコンフォトニクス技術を用いたモノリシックな偏波量子もつれ光源

松田信幸1,3 Hanna Le Jeannic1 福田浩2,3 土澤泰2,3 山田浩治2,3 武居弘樹1
1量子光物性研究部 2マイクロシステムインテグレーション研究所 3ナノフォトニクスセンタ

 量子もつれは量子情報システムにおける基本的なリソースである。とりわけ多くの量子情報処理プロトコルにおいて、光子の偏波(偏光)状態に符号化された量子状態が用いられている。また、シリコン等の基板上に集積された平面光波回路は、安定な経路長や微小な素子サイズを有しており、大規模量子情報処理システムのプラットフォームとして注目されている[1]。したがって、集積光回路中で光の偏波に関する量子状態の生成・操作・検出を行う要素技術の構築は極めて重要となる。我々は、シリコンフォトニクス技術を用い、オンチップ集積型の偏波もつれ光子対源を初めて実現した[2]。
 我々の偏波もつれ光子対源は、長さの等しい2本のシリコン細線導波路(SWW)が、シリコン細線に基づいた90°偏波回転素子によって接続されている[図1(a)]。各SWW中では、単結晶シリコンのコアにおける四光波混合過程により、波長1.55 µm帯のH(水平)偏波ポンプ光に対して、同じく波長1.55 µm近傍のH偏波の光子対が生成される。偏波回転素子は、シリコンの第1コアと酸窒化珪素の第2コアを有する偏芯二重コア構造を有し、基板に対して±45°方向に固有軸をもつ複屈折板としてはたらく。したがって適切なデバイス長のもとで、90°の偏波面回転が得られる[3]。この素子に斜め45°偏波のポンプ光を入射することで、素子終端において図1に示すような偏波もつれ光子対が得られる。SWWにおける偏波モード分散や偏波依存光損失は、もつれ光子の純度を低下させる原因である。本素子は各SWWにおけるこれらの影響が自動的に打ち消される構造をとっており、結果として約94 %という高い忠実度を示す量子もつれ状態の生成に成功した。
 本研究は科研費の援助を受けて行われた。

[1] A. Peruzzo et al., Science 329 (2010) 1500.
[2] N. Matsuda et al., Sci. Rep. 2 (2012) 817.
[3] H. Fukuda et al., Opt. Express 16 (2008) 2628.
 

図1  (a)モノリシック偏波もつれ光子対源と、(b)動作原理の概要(Vは垂直偏波を表す)。

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】