高次高調波を用いた時間分解光電子分光法による
GaAs表面の超高速ダイナミクス計測

小栗克弥 加藤景子 増子拓紀
量子光物性研究部

 高次高調波は、尖頭強度1013〜1014 W/cm2程度の高強度フェムト秒レーザパルスと希ガスの非線形相互作用によって発生する極端紫外から軟X線領域におけるコヒーレント超短パルスである[1]。高次高調波は、発見よりおよそ20年経過した現在、発生技術が飛躍的に進歩した結果、シンクロトロン放射光やX線自由電子レーザ等他の短波長パルス光源とは異なった特徴をもつユニークな光源としての地位をいまや確立し、その応用技術は広がりを見せつつある[2]。我々は、単一次数の高次高調波のシャープなスペクトル形状、基本波レーザ光のパルス幅を引き継ぐ短パルス性、そして極端紫外領域という波長特性に着目し、原子層オーダの表面プローブ特性とフェムト秒オーダの時間分解能を併せもつ時間分解表面光電子分光への応用を図ってきた[3]。
 図1に、我々の構築した超高速表面光電子分光システムの実験配置図を示す。本実験では、パルス幅100 fsのテラワットチタンサファイアレーザシステムをベースとし、GaAs(001)をサンプルとしてを用いた。図2(a)に、エネルギー密度約2 mJ/cm2のポンプ光を照射した場合と未照射の場合を比較したGaAsにおけるGa-3d内殻光電子スペクトルを示す。プローブ光とポンプ光が時間的に一致した場合(0 ps)、Ga-3dピークが約0.2 eV低エネルギー側へシフトすることが明瞭に観察された。レーザ光照射から約1800 ps後においては、このピークシフト量は大きく減少した。本実験で観察された内殻ピークのシフトは(図2(b))、レーザ光照射によって表面に生成した電子−正孔対がバンドの曲がりに従って空間分離した結果、内部電場が生じ、表面ポテンシャルを変化させること(SPV効果)に起因すると考えられる。今後は、本方法の高時間分解能化を図り、半導体表面におけるSPV効果のフェムト秒領域のダイナミクスを解明する。

[1] C. Winterfeldt et al., Rev. Mod. Phys. 80 (2008) 117.
[2] C. La-O-Vorakiat et al., Phys. Rev. Lett. 103 (2009) 257402.
[3] K. Oguri et al., Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 072401.
 

図1  超高速表面光電子分光システム。
図2  各遅延時間におけるレーザ光照射/無照射時のGa-3d内殻光電子スペクトル(a)とその時間発展(b)。

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