生体信号を取得するための機能性素材「hitoe」

塚田信吾 河西奈保子 小泉 弘1 藤井孝治2
機能物質科学研究部 1マイクロシステムインテグレーション研究所
2先端技術総合研究所

 我々はこれまで導電性高分子(PEDOT-PSS)と繊維を複合化することで、フレキシブルで生体親和性の高い生体電極を実現してきた[1]。今回、東レ株式会社と共同で、最先端繊維素材であるナノファイバ(繊維径700 nm)生地に、PEDOT-PSSを特殊コーティングすることで、耐久性に優れ、生体信号を高感度に検出できる機能素材「hitoe」の実用化に成功した。
 図1に従来の繊維と今回の技術の違いを示す。PEDOT-PSSで繊維の表面を薄くコーティングすることにより、柔軟性や通気性、肌触りなどの繊維そのものの特性を残したままで導電性が与えられる。繊維径の非常に細いナノファイバを用いることで、PEDOT-PSSでコーティングされる表面積が増大し導電性の向上や、洗濯耐久性を実現している。さらに、皮膚との接触点が増大し、肌になじみやすく接触抵抗を減少させている。現在一般的に使用されている医療用電極で必須であった導電性ペーストを用いることなく、生体信号を高感度に検出することが可能になった。「hitoe」をシャツに配置すれば(図2)、シャツを着るだけで心電図や心拍などの生体情報を得ることができる。
 「hitoe」は肌へのフィット性や通気性などを兼ね備えており、この素材を使用した生体情報計測用ウェアを着用することによって、日常生活の様々なシーンにおいて心拍数や心電波形などの生体情報を快適かつ簡単に計測できるようになる。着用者が負担に感じることなく、日常の生体情報をモニタリングすることで、スポーツ、エンターテインメント、健康増進、医療応用等の幅広い分野での応用に期待できる。

[1]
S.Tsukada, H.Nakashima, and K.Torimitsu, PLoS ONE 7(4) (2012) e33689.
図1
 従来の繊維とナノファイバの違い。
図2
 「hitoe」を用いた心電・心拍計測用インナー(東レと共同開発)と心電波形例。