光格子は、多数の冷却原子を周期的に捕捉することが可能な、レーザ光の干渉で作り出す人工結晶である。補足した原子のもつ核スピンなどの内部自由度を量子ビットとして用いれば、100万ビット規模の量子計算機も実現可能である。しかしながら、そのためには原子スピン間に量子もつれを高精度に生成する必要があるが、このような技術は未確立である。そこで、本研究では、レーザ光の照射やその強度調整などの単純な操作を組み合わせることで実現可能な量子もつれ生成手法を、理論的に提案した[1]。また、数値シミュレーションによって提案手法の性能を検討し、クラスタ状態と呼ばれる大規模な量子もつれを高精度かつ高速に生成可能であることを示した。以下に、提案手法の一部を概説する。
本提案では、光格子中のフェルミ原子の超微細構造などの(擬似的な)スピン自由度を量子ビットとして用いる。フェルミ原子特有のバンド絶縁体相転移などを利用すれば、各格子点に
1原子ずつ閉じ込められた状態を容易に生成できるが、このときは離れた格子点にある原子スピン間に量子もつれはない(図1(a))。ここに、レーザ光の追加照射などの操作を行うことによって、原子の量子状態を記述するハミルトニアンをデザインし、スピン相関を制御すれば量子もつれを生成できる(図1
(b))。しかし、原子のハミルトニアンは、スピンだけでなく軌道や格子占有数などの内部自由度を有する。このような余分な自由度が関与する量子状態の存在は、スピン間の量子もつれ生成の精度を下げるエラー要因となる。従来提案されていた手法では、そのエラーを避けるため、時間をかけて量子もつれ生成を行う必要がある(図2(a))。このことは実用上の大きな欠点である。本提案では、レーザを追加して、光格子を特定の形に変化させることで誘起できる共鳴的な軌道間遷移を利用する。これによって、高速に量子もつれ生成が可能である反面、エラー要因である余分な量子状態が出現する。我々は、このエラー出現メカニズムを解明し、さらに、エラー振動ともつれ生成振動を同期させることを提案した(図2(b))。これによって、高速かつ高精度な量子もつれ生成が可能となった。このような、エラー要因となり得る余分な自由度まで含めたハミルトニアンをデザインする新手法は、光格子中の原子を用いた量子計算実現につながると期待できる。
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