量子力学の原理によって安全性が保証された暗号鍵を、光ファイバで長い距離配送するための差動位相量子鍵配送システムについて、実際に首都圏に敷設された試験用光ファイバ伝送路に接続し(図1)、長期間に亘ってその動作安定性を検証した。これは2010年秋に行われた東京
QKD (Quantum Key Distribution: 量子鍵配送)ネットワークの実証実験[1]に続く試みである。その結果、実環境下での90
km伝搬と30 dBにおよぶ伝送損失にも関わらず、完全自動運転のもとで25日間に亘って安全鍵の安定な配送を達成するに至った[2]。システムの仕様は下記の通り。外部変調のクロックは1
GHz、光源と検出器には、それぞれ1.5 mm帯微弱レーザ光と超伝導単一光子検出器を使用。伝送路は地下と架空が半々を占める。ふるい鍵の平均生成レートは11
kbps、量子ビット誤り率(QBER)は2.6 %であった(図2(a))。そして安全鍵の生成レートの1時間の平均値は1.1 kbps、変動幅は±0.5
kbps であった(図2(b))。安全性の評価では一般個別攻撃による鍵盗聴までを想定している。
気象データとの比較により、敷設環境の時間変動が鍵配送性能に及ぼす影響が明らかになった。強い風が間断なく吹くような場合に、稀に安全鍵の供給が一時停止することはあるものの、システムは概ね安定であった。さらに、光パルス変調器の長時間連続動作がもたらす想定外の動作不安定の機構も明らかになった。この問題の解決の方策も検討している。
本研究は、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)の協力のもとに実施された。
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