近年、チップスケールの光インターコネクションやチップ内光ネットワークの研究が盛んに行われている。様々なナノデバイスの中でも、フォトニック結晶共振器は非常に小さなモード体積と高Q値をもち、高速に変調できるレーザやLEDが実現可能であることから、有望な候補となっている。そこで我々は、超高速で高効率なナノフォトニクス素子を実現するために、フォトニック結晶の内部に量子井戸を埋め込んだ素子を用いて(図1)、自然放出光の制御に関する研究を行っている。一般的な量子井戸を用いた発光制御の研究はこれまで数多く行われてきたが、活性層が面内全体にあるために、キャリアの拡散やフォトニック結晶の穴での表面再結合の影響が避けられなかった。したがって、明瞭な自然放出光制御に関する報告は量子ドットを用いた素子が中心であった。しかし、埋め込み量子井戸は、活性層が共振器内部にのみ存在し、キャリアの閉じ込めが強く、非発光表面再結合を非常に小さくすることのできるため、非常に鮮明な自然放出光制御が実現できる。
本研究では[1]、低温下にて(4K)異なる格子定数の素子を用い共振周波数をシフトさせ、発光レートの増強と抑制を測定した。図2(a)は非共鳴条件(1406 nm)での発光寿命、共鳴条件(1430 nm)での発光寿命、参照用の量子井戸からの発光寿命である。このとき、励起用レーザの強度は100 nWと、素子のレーザ発振閾値よりも1/10程度低い。また、測定に用いたL2共振器はQ=4200である(図2(b))。図2(a)が示すように、共鳴での発光寿命は明らかに高速化されており、その寿命0.2 nsは参照用のBH-QWと比べて3.8倍速い。非共鳴の発光寿命は6 nsであり、これは7.5倍発光が抑制されている。この、共鳴と非共鳴の発光寿命を比べるとそのコントラストは30倍程度あり、非常に大きい発光寿命の制御ができたことがわかる。この値は、既存の量子井戸フォトニック結晶素子と比べても最も大きく、量子ドット素子と同程度であることがわかった。この結果は、高速化ができていると同時に、高効率デバイスが実現できていることを示唆している。
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