ラマン分光による同位体ラベリングされた化学気相成長グラフェンの
トポロジカル欠陥の可視化

Shengnan Wang 鈴木 哲 日比野浩樹 
機能物質科学研究部

近年、大面積グラフェンを成長する手法として化学気相成長(CVD)法が注目を集めている[1]。しかしCVD成長で得られたグラフェンは通常面内の向きが様々なドメインがトポロジカル欠陥を介して繋がった多結晶となっている。これらのトポロジカル欠陥、特に結晶粒界が大面積CVDグラフェンの電気的、機械的特性を支配している。このため、CVDグラフェンのトポロジカル構造を評価する有効な手段を確立することは、基礎、応用研究の両面から非常に重要である。

今回我々は、マイクロラマン分光によりCVDグラフェンのトポロジカル欠陥を観測する同位体ラベリング法を開発した[2]。本手法では、主に12Cから成る標準的な単層グラフェンの成長に引き続き、水素と同位体炭素(13C)原料が連続的に供給される。水素のエッチング効果と触媒効果により、加熱された銅基板上で12Cと13C原子の交換反応が起こる。図1(a)に示すように、12Cと13C格子の格子振動エネルギーの違いを利用してラマン分光により同位体ラベリングされたグラフェン試料中の12Cおよび13Cグラフェンを観測することができた。図1(b)に示すように、13Cリッチの領域はマイクロメートルスケールの12C領域を囲む網目構造を形成している。また低速電子顕微鏡(LEEM)の暗視野像で同じ場所を観察した結果を図1(c)に示す。13Cリッチの領域は結晶粒界に対応していることが明瞭にわかる。これらの結果は、多結晶CVDグラフェンにおいて炭素原子の交換反応が結晶粒界で優先的に起こっていることを示している。同位体ラベリング法はCVDグラフェンのトポロジカル欠陥を評価する簡便で有効な手法であり、今後グラフェンの成長メカニズムの解明に資することが期待される。

[1]
S. Wang et al., Appl. Phys. Lett. 103, 253116 (2013).
[2]
S. Wang et al., Nanoscale 6, 13838 (2014).

図1 (a) 同位体ラベリングされたグラフェン試料のラマンスペクトル。12Cと13C両方を含む部分(黒線)と12Cのみの部分(赤線)。(b) 同位体ラベリングされたグラフェン試料の13C-2Dバンドラマン散乱強度マッピング。(c) (b)の場所の暗視野LEEM像。異なる色と数字は異なる結晶粒の方向を表す。