神経細胞と導電性表面の界面SEM観察

後藤東一郎 河西奈保子 住友弘二 
機能物質科学研究部

近年注目されている、神経-ナノ構造融合デバイスでは、単一神経細胞の軸索を成長パターンに沿って制御して成長する。そして、細胞の活動電位などの電気信号は導電性材料を介して高精度に検出される。従って、細胞と導電性表面との界面に関する情報は、細胞を高効率に成長制御し、その活動電位を解析するうえで重要である。しかし、この細胞と導電性材料の界面についての研究の報告例は少ない。これは、光学顕微鏡では、細胞と基板の界面の高精細かつ直接的な評価が難しいからである。そこで我々は、導電性表面に成長した細胞のFIB(focused ion beam)/SEMによる断面加工とSEM観察により、神経細胞と導電性表面の界面構造を調べた。また、培養した神経細胞の蛍光観察も併用して、細胞と基板表面の親和性についても調べた[1]。

本研究では、ラットの大脳皮質から採取した神経細胞を2種の導電性薄膜(ITO: indium tin oxideとTi)上にそれぞれ培養した。培養した細胞は蛍光染色して、細胞の成長状態を蛍光顕微鏡で観察した。さらに、脱水と固定化の後に凍結乾燥を行った細胞試料を用いて、室温でFIB/SEM実験を行った。

図1(a)、(b)はITOおよびTi表面上の神経細胞の蛍光像である。ITO薄膜上では細胞体(Soma)が凝集して、神経突起が直線的に伸びている。これは神経細胞とITOとの親和性が低いことを意味している。一方、Ti薄膜上の神経細胞では、ITO薄膜上で見られた細胞の凝集が見られず、神経突起の直線的な伸長もない。これは神経細胞とTiが高い親和性を有していることを意味する。次にITOとTiにそれぞれ培養した神経細胞の断面をFIB/SEMを用いて観察した[図1(c)、(d)]。ITO上で成長した神経細胞では、ITO表面と細胞体の界面に広い間隙が観察された。これは神経細胞がITO表面とほとんど接していないことを意味している。一方Ti上では、細胞体がTi表面に密着している状態の界面構造が観察され、蛍光実験で見られたTiの生体親和性の高さを反映していると考えられる。

本技術を応用することにより、神経細胞と基板の界面構造の詳細な評価が可能となり、高い選択性や空間分解能をもつ神経細胞の成長制御および、導電性ナノ構造上の神経活動電位の定量解析に有用な情報を得ることが期待できる。

[1]
T. Goto et al., J. Nanosci. Nanotechnol. (accepted)

図1 (a) ITO表面に培養した神経細胞の蛍光像。(b) Ti表面に培養した神経細胞。(c) ITO薄膜上の神経細胞の断面SEM像。(d) Ti薄膜上の神経細胞の断面SEM像。