多くの電子機器で使われる集積回路は、トランジスタの縮小化によって性能が向上してきた。しかし、トランジスタの縮小化により相対的にノイズの影響が大きくなっている。例えば、単一の電子が意図しない場所に捕獲されることに起因するランダム・テレグラフ・ノイズは、トランジスタの縮小化によって顕著になったノイズで、メモリ回路などの誤動作に繋がる。また、電子がもつ電荷「粒子」という性質に起因するノイズ(ショット・ノイズ)も、回路動作への影響が大きくなると予想されている。このように、トランジスタの微細化によって、ノイズを単一電子レベルで分析し理解することが重要となっている。今回、我々は、DRAMを使って、最も本質的なノイズである熱ノイズの分析を単一電子レベルで行った[1, 2]。
熱ノイズを分析するため、DRAMに電荷信号を検出するセンサを接続する(図1)。このセンサは、単一電子を検出する感度をもつことから、キャパシタ内の電子数を数えることができる。図2はセンサの出力信号の一例で、電子がキャパシタに出入りすることで電子数が揺らいでいる様子、つまり単一電子レベルの熱ノイズを表している。この電子数揺らぎは、センサを構成するトランジスタの電流特性を用いることで、電圧揺らぎに変換することができる。通常、この電圧揺らぎの広がりを表す分散値Vvar2はkBT/C(kB:ボルツマン定数、T:温度、C:キャパシタ容量)となることが知られている。これは、各々の電子が平均kBT/2の熱エネルギーをもつというエネルギー等分配則が成立することを意味する。図3はCとVvar2の関係を示しており、C > 10 aFではVvar2はkBT/Cに近い値となる一方、C < 10 aFでは、Vvar2はkBT/Cから大きくずれることがわかる。Cが大きく、キャパシタに電子を蓄積するために要する帯電エネルギーEC = e2/2C (e:素電荷)が熱エネルギーkBT/2より小さいときは、熱エネルギーによって電子がキャパシタを出入りする。しかし、EC > kBT/2では、帯電エネルギーの効果により、電子がキャパシタに入ることが困難になるため、電子数揺らぎ、つまりVvar2が小さくなる。また、DRAMに印可する電圧Vによっては、電子が1つ出入りする際に必要とされるエネルギーがゼロになる。このときは小さい熱エネルギーでも電子が出入りするため、電子数揺らぎは大きくなる。このように、Cが小さくEC> kBT/2となるときには、エネルギー等分配則が破れ、一般的に知られるkBT/Cで得られる値よりもノイズが増減することとなる。これは、電子デバイス全般に当てはまることから、今後の電子デバイスの縮小化において重要な知見になる。