電気機械共振器における2モードスクイージング

Imran Mahboob 岡本 創 山口浩司 
量子電子物性研究部

光子の量子もつれ状態について、これまで多くの実験的研究は行われてきた。このような実験が可能になったのは、光子に対する2モードスクイーズド状態がパラメトリック周波数下方変換を用いて生成できることに起因する。もし同様の手法がマクロ系の物質において実現できれば、日常的な物体の量子力学的な性質という、量子力学の本質に迫る研究を展開することが可能となる。しかし、その重要性にもかかわらず、これまでマクロ系の物質に対する2モードスクイーズド状態の生成には成功していない。その理由は、それを生み出す上でカギとなる非線形相互作用が、マクロ系物質に対して実現が難しかったためである。

このような課題に対し、我々は、化合物半導体による機械共振器 [図1(a)] において、非縮退パラメトリック増幅を用いた周波数下方変換を実現することに成功した。この素子では、非線形相互作用を電気機械的に制御することが可能であり、2つの異なる機械振動モード間で、相関した熱励起フォノンの増幅・圧縮が可能である [図1(a)] 。熱励起フォノンの増幅においては、20 dB以上のゲインが得られ、一方、圧縮による熱励起フォノンの抑制率として5 dBの値が得られた。さらに、2つのモード間で生成されたフォノンの相互相関[図1(c)]を調べたところ、ほぼ100%に近い相関係数が得られた[1]。これらの結果は、単一フォノン領域においては、本手法によりフォノンの量子もつれが生成できる可能性を示している。

本研究の一部は科研費の援助を受けて行われた。

[1]
I. Mahboob et al., Phys. Rev. Lett. 112, 167203 (2014).

図1 (a) 実験に用いたGaAs結合機械共振器の電子顕微鏡写真と、有限要素法で得られた2つの振動モードの模式図。左側は対称振動モード(S)、右側は反対称振動モード(A)を示す。(b) 測定された振動振幅のノイズ分布。横軸は正弦成分、縦軸は余弦成分。同じ振動モード(XS:YS)をプロットした場合、等方的なノイズ分布が見られるが、異なる振動モード(XA:YS)をプロットした場合、ノイズに強い相関がみられた。これは2モードスクイージングが実現できていることを示している。(c) それぞれの振動モードの余弦・正弦成分の間の相関係数。本来独立であるはずのXAとYS、ならびにXSとYAのノイズ間において、60%程度の相関がみられる。この値はポンプの増加とともに100%に漸近する。