光ナノ共振器による単層カーボンナノチューブのラマン散乱増強

角倉久史1,2 倉持栄一1,2 谷山秀昭1,2 納富雅也1,2
1量子光物性研究部 2NTTナノフォトニクスセンタ

カーボンナノチューブは、低次元量子閉じ込め効果に由来する強い電子・フォノン相互作用によって強い自然ラマン散乱を示すことが知られており、大きなラマンゲインをもつことが示唆されている。そこで本研究では、高Q値の光ナノ共振器とカーボンナノチューブを用いて低閾値動作を特徴とするラマンナノレーザの実現を目的として、Q値1100のフォトニック結晶共振器による半導体性単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の自然ラマン散乱増強を試みた。図1(a)は点欠陥型シリコンフォトニック結晶共振器にSWCNTを塗布した試料を示しており、共振器上にSWCNTがランダムに配置されていることがわかる。また図1(b)は波長940 nmのレーザ励起時における試料のストークスラマンスペクトルであり、1600 cm-1付近にSWCNTのG+モードによる強いラマンピークが見られる。そこで波長可変レーザによって励起波長を変化させて、このG+ラマンピークを共振器の共振波長に合わせた。そのとき得られた試料のラマンスペクトルとGラマンピーク強度のラマン散乱波長依存性を図1(c)、(d)に示す。試料のフォトルミネッセンス測定によって求められた共振器ダイポールモードの共振波長1117 nmとG+モードのラマン散乱波長が一致したとき、ラマンピーク強度は共鳴的に増大することがわかった。この結果は、フォトニック結晶共振器によってSWCNTの自然ラマン散乱が増強されたことを示している[1]。さらにSWCNTの励起効率やラマン散乱光の放射効率を考慮すると、平坦なシリコン薄膜上に対して共振器ではSWCNTのラマン強度が約100倍増強されていることがわかった。これは、共振器によってラマン散乱光の放射効率が約20倍、光の状態密度が約5倍増大したことに起因していると考えられる。

今後は、SWCNTとの結合効率がより高いエアスロット型共振器を作製し、SWCNTの誘導ラマン散乱の観測やラマンナノレーザの動作実証を目指す。

[1]
H. Sumikura et al., Appl. Phys. Lett. 102, 231110 (2013).

図1 (a) 半導体性単層カーボンナノチューブを塗布した点欠陥型シリコンフォトニック結晶共振器の走査電子顕微鏡写真。 (b) 試料を波長940 nmのレーザで励起したときのストークスラマンスペクトル。 (c) 試料のストークスラマンスペクトル励起波長依存性。フォトルミネッセンス測定で得られた共振器モードのスペクトルも示す。 (d) G+ラマンピーク強度のラマン散乱波長依存性。