世界最高精度をもつギガヘルツ高速単電子転送

山端元音1 Stephen P. Giblin2 片岡真哉2 唐沢 毅1 藤原 聡1
1量子電子物性研究部 2National Physical Laboratory

 単電子ポンプはクロック制御により電子を1つずつ転送する素子であり、クロック周波数をfとすると、正確な出力電流efe:電気素量)を生成できる。この正確な電流は電流の物差しに対応する電流標準への応用が期待される。これまで、多くの単電子転送の報告があるが、1 GHz以上の高速動作における高精度化が困難であった。今回、我々はシリコントランジスタを利用した単電子ポンプ[1]から生成した電流を1次標準で精密に校正した高精度測定系で測定し、1 GHz動作で9.2×10–7以下の極めて低い転送エラー率を実証した[2]。
 図1(a)に素子の概略図を示す。この素子は10 nmオーダーのシリコン細線上に2層のゲート電極をもつ構造をもつ。まず、上層ゲートにDC電圧を印加し、シリコン細線に電荷を誘起する。下層ゲートG1に高周波クロック電圧を、下層ゲートG2にDC電圧(VG2)を印加することで、単電子をソースからG1-G2間の島に捕獲し、その後ドレインへ放出する。生成された転送電流を高精度電流測定系 [図1(b)]で測定した。ジョセフソン電圧標準と量子ホール抵抗標準による校正により、測定系の測定不確かさを8.8×10–7と極めて小さくすることが可能となる。
 図1(c)に1 GHz動作時のefからの差分の割合を示す(横軸はVG2)。測定の標準不確かさが9.2×10–7なのに対し、電流プラトー内での測定値の平均値はefから–6.4×10–7efで規格化した値)しかずれていないことから、標準不確かさの範囲で測定結果はefに一致したと言える。また、電流プラトーは 9.2×10–7のレベルで平坦である。これらの結果は、転送エラー率が9.2×10–7以下であることを示しており、GHz領域での世界最高精度である。さらに、2 GHz動作では3×10–6程度の転送エラー率であることもわかり、微細構造をもつ本素子はGHzの壁を打ち破る高速動作に適した素子であることが実証された。今後はさらなる高精度動作実証へ向け測定系と素子の最適化を行い、高精度電流標準実現を目指す。

図1 (a) 単電子ポンプの概略図。(b) 高精度電流測定系:1 GΩ標準抵抗と電圧計を1次標準で校正した。電圧設定によりIR ~ efとするとID << efとなり、IDの測定不確かさは無視できる。(c) 1 GHzでの高精度電流測定。