超伝導磁束量子ビットを用いた巨視的実在性問題の実験的検証

角柳孝輔1 George C. Knee2  Mao-Chuang Yeh3 松崎雄一郎1 樋田 啓1 山口浩司1
齊藤志郎1 Anthony J. Leggett3 William J. Munro2
1量子電子物性研究部 2量子光物性研究部 3University of Illinois

 我々の暮らす巨視的世界では観測されたものは観測以前から状態が確定しているという「実在性」が成り立っていると考えられている。一方で、量子力学に従う微視的な世界では量子重ね合わせ状態が現れる。この量子重ね合わせでは観測によってはじめて状態が確定することから、微視的世界では「非実在性」が現れると考えられている。巨視的な系も量子力学に従う微視的な系から成り立っているが、巨視的な系でも「非実在性」が現れるかどうかは量子力学の黎明期からの問題であった。
 超伝導磁束量子ビットは複数のジョセフソン接合と超伝導ループから成る回路であり、その非線形性のために2準位系と見なせる系である。この2つの状態はそれぞれ巨視的な数の電荷の流れである電流の右回りと左回りの状態に対応する。我々はこの超伝導磁束量子ビットを用いて電流状態での実在性の破れを示すことを試みた。
 実在性が成り立つ際には Leggett-Garg不等式と呼ばれる条件が満たされることが理論的に知られている。もし超伝導磁束量子ビットでは実在性が成り立っているのであれば量子重ね合わせ状態は実現しておらず、観測前に状態が確定している。そのため、観測は状態を変化させない。一方で、量子重ね合わせ状態が実現しているならば、観測による固有状態への射影が起こり、状態は観測に依存する。量子重ね合わせが実現していた場合に観測の有無により終状態に違いが現れる測定を行い、その差を調べた。この方法はLeggett-Garg 不等式と数学的に等価な条件を調べることに対応し、高精度な実験が可能な方法である。この方法で非実在性を示すには、観測が射影以外の外乱を生み出さないことを示す必要があるので、そのような外乱の大きさを定量的に評価する実験も行った。
 実験の結果、超伝導磁束量子ビットで重ね合わせ状態と考えられる状態を用意したのちの観測の有無による状態の違いは、観測の外乱による差を大きく超える[図1(a)]ことを示すことに成功した[1]。これは巨視的な電流状態でも量子重ね合わせ[図1(b)]が現れ観測により電流の向きが確定することを意味している。
 本研究の一部はJSPS科研費JP15H05870とJP15H05867の助成を受けたものである。

図1 (a) 観測の有無の差の実験結果。(b) 電流状態の量子重ね合わせ。