アト秒時間で振動するGaN半導体電子系のペタヘルツ光学動作

増子拓紀 小栗克哉 後藤秀樹
量子光物性研究部

 現在の応答デバイスの信号処理速度は、半導体中における物理応答特性に寄与し、その動作周波数は1テラヘルツ(1012 Hz:THz)に達する。さらなる高周波のペタヘルツ(1015 Hz: PHz)応答を実現するためには、現在のラジオ周波数帯のマイクロ波動作から、光周波数帯での光源を用いた動作へと移行することを検討している。本研究では、アト秒(10–18 秒:as)パルスを用いた時間分解計測により、窒化ガリウム(GaN)半導体電子系が作るPHz周波数を伴う光学応答現象の観測に成功した[1]。
 図1(a)に実験概要を示す。GaN半導体[0001](厚さ:102 nm、バンドギャップ:3.4 eV)に対し、真空紫外アト秒パルス(パルス幅:660 as、スペクトル帯域:17~24 eV[2])と近赤外フェムト秒(10–15 秒:fs)パルス(パルス幅:7 fs、中心光子エネルギー:1.6 eV、集光強度:1×1010 W/cm2)を用いた過渡吸収分光計測を行った。図1(b)は、近赤外パルスにより変化する相対吸光度(ΔOD)を示す。近赤外パルスの3光子励起により、電子は価電子帯から伝導帯へと遷移され、超高速の電子振動を誘起する。図1(c)が示す様に、この振動周期は860 asに達し、相当する周波数は1.16 PHzである。これは、過去に固体媒質において観測された振動現象の中で最高の周波数をもち、超高周波応答デバイスの実現を示唆している。
 本研究はJSPS科研費JP16H05987とJP16H02120の助成を受けたものである。

図1 GaN半導体におけるPHz光学動作。(a) 過渡吸収分光実験の概要図。
(b) 計測された相対吸光度(ΔOD)。 (c) ラインプロファイル[(b) の光子エネルギー軸を積算]。