機能物質科学の研究概要

高柳英明
機能物質科学研究部

 我々は、原子や分子の配列や結合を制御することにより、天然には存在しないものまでも含めた新物質を創り出し、その物質の量子現象を利用した新機能の発現を目指しています。この目的のため、本研究部は以下の4つのグループが、それぞれ異なった観点から研究を進めています。各グループは、半導体などの無機物質から神経伝達物質などの有機物質にいたる広範囲な物質群をカバーするよう配置され、独自の微細加工技術や精密測定技術を通じて互いに有機的に連携されています。これによって、互いの研究領域や手段が融合し、情報流通社会における技術革新をもたらす機能物質の研究が可能となります。

分子生体機能研究グループ
ナノバイオをキーワードに、単分子レベルの操作技術を利用した今までにない有機・生体分子デバイスの創出を進め、神経機能を土台とした新しい情報処理機構を開拓する。

超伝導体薄膜研究グループ
分子線エピタキシ(MBE)成長技術を用いて、最高品質の新高温超伝導材料を合成しその謎の解明を目指す。超伝導体薄膜を利用したマイクロ波デバイスの研究も進めている。

超伝導量子物理研究グループ
もっとも実現に近いと考えられる超伝導量子素子による量子計算機の研究を行っている。量子ビットの実験的検証とともに、量子ドット構造により新機能が設計できる事を提案する。

スピントロニクス研究グループ
電子スピンによる情報処理という新しい分野を開拓するために、半導体中のスピンを電気的に制御する方法を確立し、これを用いた機能デバイスの実現を目指す。
 今年度の代表的な成果を、次ページ以降に4つ掲載します。最初のトピックは、神経回路の可塑性の確認についてです。ラット大脳皮質を培養した神経回路を独自の微小電極アレイ技術と新規に開発した再現性に優れた電気刺激システムにより測定し、外部刺激に対する誘発反応が刺激のパターンと高い相関を持つことが確認できました。これは脳の記憶メカニズムを神経回路レベルで裏付けるものと考えられます。
 超伝導薄膜の研究ではMBE法の特性を生かした低温合成を行うことにより、従来、K2NiF4構造のみ合成されてきた高温超電導体La2CuO4をNd2CuO4構造として合成することに初めて成功しました。二つの配位構造を自由に選択成長するための条件も解明され、今後の新物質合成のための技術が確立できました。
 3番目のトピックは量子ドット超格子構造のパラメータ設計により発現する新機能についてです。InGaAs中に埋め込まれたInAs細線による正方格子の間隔を変更しプラケット格子とすることにより、超伝導転移温度が2倍以上高くできる事が理論的に導かれました。構造パラメータ設計により所望の物性を得られることが示されました。
 最後はスピン軌道相互作用の制御についてです。非対称なInGaAs量子井戸の磁気抵抗測定を行い、ラシュバスピン軌道相互作用が非対称性に伴い変化することを確認しました。得られた相互作用係数はポテンシャル形状から得られる理論値とよく一致し、ラシュバスピン軌道相互作用係数の系統的な測定に初めて成功したことになります。


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