化合物半導体マイクロ・ナノメカニカル素子

山口浩司 平山祥郎
量子物性研究部

 化合物半導体へテロ構造は、ナノメートルスケールで組成が変調できる特徴を生かし、これまでレーザや超高速トランジスタなどの光・電子デバイスに数多く用いられてきた。特に、電子の波としての性質が顕著になる量子ヘテロ構造では、量子力学的な原理に基づく機能性が出現する。我々は、化合物半導体によって作製した量子へテロ構造に微小な機械としての機能を加えることにより、新原理に基づく半導体デバイスの開発を目指している。図1はその典型例であるヘテロ構造メカニカル変位センサーの電子顕微鏡写真である。導電性InAs薄膜(厚さ15 nm)と絶縁性AlGaSb薄膜(厚さ285 nm)のヘテロ接合構造をリソグラフィーと選択エッチングによりカンチレバー状に加工し、InAs薄膜の抵抗値の変化を検出することにより、このカンチレバーの「しなり」を高感度に検出することが可能である。試作した素子では、量子力学的な有限サイズ効果により、0.01 nm/Hz0.5以下という極めて高い感度でカンチレバーの変位を検出することが可能である [1]。図2は結晶成長における自己組織化技術を用いて作製した、厚さ6 〜30 nm、幅が20 〜100 nm、長さが50 〜500 nmという極めて微細なInAsカンチレバーである [2]。InAsは表面近傍数ナノメートルの領域に電子がたまるという特徴を持っているため、このカンチレバーは高い導電性を持つ。このようなナノメートルサイズのメカニカル構造では、極低温において機械振動のエネルギーが量子効果により離散的になると期待され、これまでとは全く異なる新原理・新概念に基づいたデバイス応用の可能性が拡がる。

[1] H. Yamaguchi, S. Miyashita, and Y. Hirayama, Appl. Phys. Lett. 82 (2003) 394.
[2] H. Yamaguchi and Y. Hirayama, Appl. Phys. Lett. 80 (2002) 4428.

図1 InAs/AlGaSbヘテロ構造により作製した変位検出器の電子顕微鏡写真
図2 結晶成長における自己組織化手法を用いて作製したナノスケールカンチレバーの電子顕微鏡写真

【前ページ】 【目次へもどる】 【次ページ】