半導体電荷量子ビット

林 稔晶 藤澤利正
量子物性研究部

 超高速量子並列計算が期待されている量子コンピュータの実現には、固体素子による量子情報素子の開発が重要である。近年の微細加工技術により、固体素子中に人工的に制御可能な量子二準位系(量子コンピュータの基本素子である量子ビット)を作成することが可能になってきた。我々は、全電気的な制御が可能な半導体量子ドットにおける電荷および電子スピンを用いた量子ビットにより、量子コンピュータの実現を目指している。
 ここで述べる半導体電荷量子ビットは、2個の量子ドット(二重量子ドット)で構成され、電子1個がいずれか一方の量子ドットを占有する2つの状態を量子二準位系とするもので、外部電圧により量子ゲート操作に必要な全てのパラメータを制御できる特徴がある。我々は、GaAs/AlGaAsヘテロ構造から作製した横型二重量子ドット(図1)を用い、コヒーレント電荷振動の観測に成功した[1]。高速電圧パルスをドレイン電極に印加し、二重量子ドットのポテンシャルを急激に変化することにより、「量子ビットの初期化」、「コヒーレント制御」、「読み出し」の一連の動作を行うことができる。図2は、20 mKの極低温において、右側量子ドットに電子が存在する確率にほぼ対応する平均電子数を電流測定から調べたもので、印加した矩形パルスの時間に対して振動する様子が観測される。これは、量子ビットの回転ゲートの動作を示しており、たとえば半周期に対応する矩形パルスは反転(NOT)ゲートとして機能する。また、ゲート電圧により量子ドット間の結合を変化することにより、振動の周期を制御することも可能である。さらに、電荷量子ビットの位相シフトゲート操作の実現にも成功しており、これらの組み合わせによって、1量子ビットの状態を任意に制御できることを示している[2]。本結果は半導体量子ドットを用いた量子コンピュータ実現に向けての第一歩であり、今後は二量子ビットの動作を目標に研究を進める。

[1] T. Hayashi et al., Phys. Rev. Lett. 91 (2003) 226804.
[2] T. Fujisawa et al., Physica E, in press.

図1 試料のSEM写真と回路の概念図
図2 平均電子数のパルス時間依存性

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