窒化物半導体面発光レーザ

俵 毅彦 後藤秀樹 赤坂哲也 小林直樹 齊藤 正
量子物性研究部

 窒化物半導体量子井戸を用いた発光デバイスが近年盛んに研究されている。しかしGaAs系半導体に比べ窒化物半導体は空気との屈折率差が小さく、その界面での反射率は18%程度と小さい。これが発光デバイスとしての動作電流の増大を引き起こす原因となっている[1]。レーザの場合、発振閾値を減少させる一つの方法として垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)構造の利用がある。共振器サイズを発光波長程度まで小さくすることで自然放出確率の制御が可能となり、発振閾値の減少につながる。
 通常VCSEL構造は、同種の半導体膜で構成される共振器層(発光層を含む)と分布ブラッグ反射鏡(DBR)からなり、一貫した結晶成長で作製される。しかし窒化物半導体で高反射率DBRを構成する場合、DBRの各層間に生じる大きな格子不整合のため、共振器層にクラックや表面荒れが生じることが問題となっていた。
 今回我々は、InGaN量子井戸を含む窒化物共振器層をSiC基板上に成長し、光損失となるSiC基板を選択的に除去、その後酸化化合物からなるDBR層を張り合わせた。これによりクラックや表面荒れのない共振器構造が実現した(図1)。この作製されたVCSEL構造のInGaN発光層の発光波長400nm近傍での共振波長帯域は1nm以下であり、光損失の少ない高精度な共振器が実現されていることが分かった。また作製された窒化物半導体VCSEL構造における発光スペクトルの光励起強度依存性を室温で測定した(図2)。このとき発光強度変化に明瞭な非線形な特性が観測され、これはVCSELがレーザ発振していることを示している。さらにこの発振特性より自然放出結合係数(発光のレーザ発振への寄与の割合)は0.01程度と、通常の横共振器型レーザの1000倍もの高効率化が実現されていることも分かった[2]。
 このような構造では、共振器層の結晶品質を保ったままDBRの反射率や反射帯域を自由に選択できるという利点がある。また窒化物半導体はGaAs系半導体に比べ励起子振動子強度や束縛エネルギーが大きく、このような高品質共振器を用いることで室温での強い励起子−光子結合状態の形成が今後期待される。

[2] H. Wang, et al., Appl. Phys. Lett. 81 (2002) 4703.
[1] T. Tawara, et al., Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 830.

図1 InGaN VCSELの断面電子顕微鏡像
図2 光励起発振特性

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