細胞内pHを制御するIP3レセプターの新規の機能

藤本一朗1 白壁恭子1 宮下英俊1 御子柴克彦1,2 鳥光慶一1,3
1東京大学医科学研究所 神経情報シグナル共同研究ユニット
2東京大学医科学研究所 脳神経発生・分化分野 3機能物質科学研究部

 細胞内のpHは、生体内で産出される二酸化炭素によりダイナミックに変化する。二酸化炭素は重炭酸イオンとして細胞膜を輸送されることによりpH調整が行われている。特に膵臓の腺房中心細胞では重炭酸イオンの分泌が胃酸を中和する働きを担っている。腎臓では血液内のpH濃度を制御しており、このバランスが崩れた場合には動脈内の血液のpHが低くなり、視覚の異常の緑内障、白内障、角膜障害、盲目や低身長、精神遅滞などの障害を引き起こす。
 今回、イノシトール3リン酸レセプター(IP3R)に結合している新規タンパク質のアービット(IRBIT)が、細胞表面に存在するナトリウム・重炭酸イオン共輸送体(NBC)に結合し、そのイオン輸送活性を飛躍的に上昇させることを見いだした。NBCには2種類のサブタイプが報告されているが、今回の活性はPタイプのみに作用し、Kタイプには作用しなかった。今回の発見で重要なことは、これまで生体内でNBCのタイプ別の発現の意義が理解されていなかった状況で、初めてタイプ別の活性制御機構が明らかとなったことであり、細胞内pHの制御メカニズムを解明する上で極めて意義のあるものであると言える。しかも細胞内で種々の重要な役割を担うIP3Rから放れたIRBITが、別のタンパク質に作用してその活性を上げることは細胞内シグナルの新しい展開でもあり、今後の発展が注目される。
 昨年、米国の科学誌「Science」に発表したIP3Rの2型・3型のダブルノックアウトマウスの唾液腺や膵臓などで消化器系の機能不全が見いだされたことに非常に関連すると考えられ、IP3Rから放出されるタンパク質分子による新しい情報連絡機構が明らかになってきた。

[1] K. Shirakabe et al., Proc Natl Acad Sci USA 103 (2006) 9542-9547.

 

図1 新しい情報連絡システム概念
図2 卵母細胞での電気生理学的活性評価

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