らせん状ポリシランにおけるドミノ現象の発見

藤木 道也
機能物質科学研究部

   一方向に巻いたらせん性高分子を簡便に合成する方法を開発することは、生化学、高分子化学、超分子化学、分析化学の分野において、また高純度キラル物質分離製造、製薬などの工業界において長年課題とされていた。一般に、右巻きあるいは左巻きらせんの高分子を選択的に合成するには、高純度の右手系あるいは左手系のキラリティを有する高分子残基、側鎖構造、重合開始剤を用いる必要がある。実際この方法により、右手系のDNAと左手系のDNA、および右手系のタンパクと左手系のタンパクが合成されている。著者は最近ポリシランにおいて、低純度のキラリティを有する側鎖を用いても高純度キラル側鎖を含むポリシランと同様に、ちょうどドミノ倒しのようにらせん巻き性を右巻きあるいは左巻きに一方向に制御することを見いだした。
   コポリマーの右巻き(左巻き)らせんの割合と左手系(右手系)側鎖基の割合の関係を図1に示す。左手系側鎖基が20%の光学純度(ee)であるにも関わらず、ほぼ100%主鎖らせんの巻き性は右巻きに偏る。反対に右手系側鎖基が20%eeであるにも関わらず、ほぼ100%主鎖らせんの巻き性は左巻きに偏る。また左手系側鎖基がわずか6%eeであるにも関わらず、主鎖らせんの巻き性は大きく右巻きに偏る。反対に右手系側鎖基がわずか6%eeであるにも関わらず、主鎖らせんの巻き性は大きく左巻きに偏る。このようにポリシランコポリマーではらせん性協同現象が顕著に現れる。工業的見地からこのような知見は商業的に安価なキラル原料から一方向にらせんを巻いた高分子を簡便に合成する新しい方法を提供するものである。
[1] M. Fujiki, Polym. Prepr. (Am. Chem. Soc. Polym. Sci. Div.) 37(1996) 454.
[2] 藤木、瀧川、特許出願中.
[3] M. Fujiki, manuscript in preparation.

図1:コポリマーの右巻き(左巻き)らせんの割合と左手系(右手系)側鎖基の割合の関係


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