高指数面上の異方的歪緩和とナノ構造形成

住友弘二 Zhaohui Zhang 尾身博雄 荻野俊郎
先端デバイス研究部

 ナノ構造の自己組織化は、ボトムアップの半導体ナノテクノロジにおいて、最も重要な技術の一つである。しかし、これらの技術を基にSiナノデバイスを実現するためには、ナノ構造のサイズ・形状・配置を制御する必要がある。ナノ構造形成制御の重要要素の一つである表面応力と歪緩和について、原子スケールでの検討を行った。Si(113)面上におけるGeナノ構造形成について、新しい表面超構造モデルを提案し、異方的な表面応力・歪緩和とナノ構造形成メカニズムの関係を明らかにした。
 Si(113)面上にGeを2原子層程度成長すると、安定な2×2超構造となる。図1に、今回我々が提案した構造モデルと、それに対応する走査トンネル顕微鏡(STM)像(実験と理論計算)を示す[1]。A列では、最表面のGe原子が1個抜けて再結合している。B列のGe原子は5角形を形成し、一方の原子(2番)が高く持ち上がり、反対の原子(5番)が沈みこんでスタックした構造を示す。実験で得られたSTM像と、理論計算を基にしたシミュレーション結果はよく一致し、我々の提案したモデルの妥当性を示している。また、この特徴的な表面再配列は、[11(−)0]方向には圧縮応力を、[332(−)]方向には引っ張り応力を引き起こしており,更にGeの成長を続けると、このような異方的な表面応力が、図2に示すような[332(−)]方向に長く伸びた3次元島(ナノワイヤ)の自己形成を引き起こす事が分かった。また、ナノワイヤ構造内部の歪は、ワイヤと垂直方向にのみ完全に緩和することも分かった[2]。このナノワイヤの形成は、完全な歪緩和が可能な幅に制限され、ワイヤ間の相互作用(斥力)を生み出し、幅と分布の均一性を引き起こしていると考えられる。表面応力と結晶歪の異方性により、ナノ構造の形状やサイズを原子スケールで制御できる事を示唆する結果である。

[1] Z. Zhang et al., Phys. Rev. Lett. 88 (2002) 61011.
[2] K. Sumitomo et al., Phys. Rev. B 67 (2003) 35319.

図1 Ge/Si(113)-2×2超構造モデルと、STM像 (a,b)実験、(c,d)シミュレーション
図2 Geナノワイヤー構造のSTM像

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