選択成長を用いた窒化物半導体へテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)

牧本俊樹 熊倉一英 小林直樹
量子物性研究部

 携帯電話などの無線通信の発展にともなって、1GHzを超える高い周波数領域で高い出力を発揮するトランジスタの開発がますます重要になってきた。携帯電話の基地局などの無線通信に用いられるからである。トランジスタの出力を高くするためには、動作電圧を高くするとともに、大きな電流を流すことが必要である。ここで、窒化物半導体は他の半導体よりも大きなバンドギャップを持っているため、高い電圧を印加することができる。一方、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)は、大きな電流を流すことのできる高周波用トランジスタの一つの形式である。従って、窒化物半導体を使ってHBTを作製すれば、極めて高い出力を発揮させることが期待できるので、窒化物半導体HBTの研究が進められている。
 しかしながら、従来の窒化物半導体HBTには、二つの大きな課題があった。一つ目の課題は、HBTの特性を示す指標である電流利得が低かったことである。二つ目は、コレクタ電流が流れ始める電圧(オフセット電圧)が高かったことである。これらの二つの課題はトランジスタ作製時に発生する結晶欠陥に関連すると考えられる。本研究では、これらの欠陥の影響を抑制するために、外部ベース層にp型InGaNを選択成長する方法を提案した。
 図1は、本研究で作製したHBTの構造である。ベース層にはp型GaNに比べて抵抗の低いp型InGaNを用いており[1]、高い降伏電圧を得るためにダブルへテロ構造を採用している [2]。図1に示したように、HBTを作製する際のエッチングによってベース層表面には多数の結晶欠陥が発生している。そして、これらの欠陥がHBT特性を劣化させていた。本研究では、多数の結晶欠陥が存在するベース表面上にp型InGaNを再成長することにより、欠陥の影響を大幅に抑制した。その結果、電流利得は従来の窒化物半導体HBTで報告されている最大値よりも100倍も高く、オフセット電圧も1/10まで低くすることができた[3,4]。

[1] K. Kumakura et al., Jpn. J. Appl. Phys. 39, L337 (2000).
[2] T. Makimoto et al., Appl. Phys. Lett. 79, 380 (2001).
[3] T. Makimoto et al., Proceeding of The Fifth International Conference on Nitride Semiconductors (ICNS-5), Nara Japan, May 2003.
[4] T. Makimoto et al., Proceeding of 2003 Device Research Conference (2003 DRC), Salt Lake City USA, June 2003.

図1 本研究で作製した窒化物半導体HBTの構造
図2 HBTのエミッタ接地電流-電圧特性

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