ランタン銅酸化物におけるノンドープ新超伝導体の発見

束田昭雄 山本秀樹 内藤方夫*
機能物質科学研究部
*現在 東京農工大学工学部

 銅酸化物高温超伝導は、モット−ハバード絶縁体であるCu2+の母物質に正孔または電子をドープすることで発現すると考えられている。La2CuO4は、ベドノルツ・ミュラーが最初に発見した高温超伝導体(La,Ba)2CuO4で知られるように、バルク合成ではCu-Oが八面体6配位したK2NiF4構造(略称T構造)をとるが、薄膜低温合成ではCu-Oが平面4配位したNd2CuO4構造(略称T’構造)も安定化することができる[1]。T’構造を持つ214型電子ドープ系超伝導体の母物質T’-La2CuO4は、3価のLaの一部を4価のCeで置換することで電子キャリアを注入し、超伝導が発現することが知られている。
 これに対し我々は、薄膜試料のT’-La2CuO4で、3価のLaの一部をイオン半径の小さな3価の希土類元素(RE)で置換することで、超伝導が発現することを発見した[2]。T’-La3+2-x,RE 3+xCuO4 (RE 3+ = Sm3+, Eu3+, Gd3+, Tb3+, Lu3+, Y3+)と表記される新超伝導体は、La及びREが共に3価であるため、元素置換によるドーピングはないにもかかわらず、Tc 〜 21 Kを有する。図1にLa2-xYxCuO4の抵抗率の温度依存性を示す。Y組成の少ない試料(x 〜 0.09, 0.15)で約20 Kの超伝導転移を示している。図2はTcのRE置換量(x)依存性であり、Y以外にも多くの希土類元素で超伝導が発現することを確認した。超伝導キャリアの起源については、二つのシナリオが考えられる。(1)酸素欠損による電子キャリアドーピング、(2)T’型の超伝導母物質はモット絶縁体ではなく本質的にキャリアを持つバンド金属。現在、キャリアの起源については調査中である。もし(2)が正しいとすれば、これまでの高温超伝導機構を理解するための出発点とされてきた「ドープされたモット絶縁体」という描像に重大な疑問を呈することになる。

[1] A. Tsukada, et al., Phys. Rev. B 66 (2002) 184545.
[2] A. Tsukada, et al., Physica C, in press.

図1 La2-xYxCuO4の抵抗率
図2 TcのRE組成依存性

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